相次ぐ爆破予告 ウクライナ隣国モルドバ、緊張続く 7月以降に増加

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 戦争による被害を受けているウクライナと国境を接し、欧州連合(EU)にも北大西洋条約機構(NATO)にも加盟していない貧しい内陸小国のモルドバは、爆破予告への対応に迫られている。

 薄曇りのある日、首都キシナウにある国際空港では爆発物探知犬が活動しているところを数百人が列をなしていた。ロシアによるウクライナ侵攻で旧ソ連の一角を不安定化させる動きと対峙しているヨーロッパ最貧国では、これが日常の風景になっている。

 7月以降、モルドバでは首都にある役所、空港、最高裁判所、ショッピングモール、病院などで60件近くの爆破予告があり、8月の2週目だけで15件を超えた。

 メールで送られてくることの多い予告のすべてが偽の内容であったとされ、当局は送信元のコンピュータアドレスがロシア、ウクライナ、ベラルーシにあったことを突き止めたという。

 キシナウのシンクタンク、ウォッチドッグのアナリストを務めるヴァレリウ・パシャ氏は「これはモルドバに対して行われている情報戦の一環で、いまなお続いている。モルドバを不安定化させるためのロシアによる工作かもしれない。彼らはさまざまな手段を用いる」と述べている。

 2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、人口260万人のモルドバは数多の危機に直面してきた。国民あたりでみると世界で最も多くのウクライナ難民を受け入れ、親ロシア派支配地域では緊張が高まっている。深刻なエネルギー危機に直面しているだけでなく、ほかのヨーロッパ諸国と同様に高騰するインフレにも手を焼いている。

 この状況で爆破予告が頻発すると、すでに手一杯の当局にさらに圧力が加わる。パシャ氏は「警察、捜査、技術サービスなど、多くのリソースが妨害されている。これはモルドバの国家システムや公共サービスに対する一種の嫌がらせと言ってもいい」と話す。

 モルドバ組織犯罪対策局のマキシム・モティンガ検事はAP通信に対し「爆破予告が始まって以来、事実上連日、刑事捜査が進められている。現時点ですべての刑事捜査が進行している。ロシアとウクライナが関与していることが立証されれば、両国からの公的な支援が要請される。彼らから何らかの回答が得られることを期待している」と述べている。

 8月15日にトルコからキシナウに戻る予定だったモルドバ人会社員のヴェアチェスラヴ・ベルバス氏(43)は、搭乗機が首都の空港上空で30分も旋回している間、爆破予告があると聞いて恐怖を感じた。結局、飛行機はUターンしてトルコに向かった。同氏は「たくさんの祈りを捧げ、ついに着陸した。あまりにもショックが大きく、飛行機に乗るのはこれが最後かもしれないと妻に話したほどだ」と語る。

 モルドバでは4月に、ロシアが支援し親ロシア派が支配するトランスニストリア地域(沿ドニエストル共和国)で爆破事故が相次ぎ緊張が高まった。この地はいわゆる凍結された紛争地帯で、ロシアは約1500人の部隊を駐留させている。NATO非加盟国で軍事的に中立のモルドバが、ロシアによる戦争の道筋に引きずり込まれる恐れが出てきた。少なくともあるロシア政府高官は、本土からトランスニストリアにいたるロシア支配地域を結びつけられるほど十分な土地をウクライナ南部で獲得すると公言している。

 観測筋の見立てでは、歴史的にロシアと近い関係にあるモルドバが西側志向を強め、ロシアのウクライナ侵攻直後にEUへの加盟を申請したことを受けて爆破事件が起きたという。爆破予告が始まる少し前の6月下旬、モルドバはEUの加盟候補国に認定された。

 1991年の独立以来、この国は組織犯罪や役人の腐敗に悩まされてきた。2019年の選挙後に1人のオリガルヒ(政商)が政権を奪取しようとした際、大規模な抗議デモが発生し、彼は国外への逃亡を余儀なくされた。2014年には、複数の政治家とオリガルヒが結託し、現地の銀行から10億ドルが消失する詐欺事件に関与したとされるが、起訴にはいたっていない。

 ガリーナ・ゲオルゲス氏(35)は7月、家族の集まりに参加した後、爆破予告があったためにモルドバからイギリスに戻る便が欠航となった。犯人が捕まっていないことに憤りを感じており「いまの状況は最悪だ。残念な話だが、罪もない人々が苦しんでいる」と話す。

 モルドバ内務省では、混乱につながり多額の費用を要する爆破予告が今後も続くとみられているなか、罰金を増額し刑期を延長することで偽の予告をした容疑で有罪判決を受けた者への処罰を厳しくすることを明らかにした。

 キシナウ空港では7月以降、数十回もの爆破予告があり、その都度警備態勢が強化されてきた。空港に設置されている国境警察隊を率いるラドゥ・ザノアガ氏によると、爆破予告がなされるたびに警備員が市中心部から移動する手間を省くために専門部隊が設置された。同氏は「いまのところ、空港内で活動している他国の機関や組織とも協力して対処している。以前にも爆破予告はあったが、これほど頻繁ではなかった」と語る。

By CRISTIAN JARDAN and STEPHEN McGRATH Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP