麻薬取引で死刑に シンガポールの厳しい制度を人権団体が批判

マレーシア人死刑囚の刑執行に反対する人々(クアラルンプール、4月26日)|Seth Akmal / Shutterstock.com

◆減刑認められず 国内でも疑問の声
 実は4月にマレーシア人男性がヘロイン密輸の罪で死刑になっていた。この男性の家族と弁護士は、数ヶ月にわたって彼が知的障害者であることを理由に上訴し減刑を求めていた。ある鑑定では、彼のIQは69(国際的に知的障害と認められるレベル)とされたが、裁判所はその主張を退け、犯行時に判断能力があったと結論づけた。(BBC

 これをきっかけに、シンガポールの制度が「寛容さゼロ」として国際的に再注目されることになった。さらに政治的に消極的なシンガポールでは珍しく、この事件は意識の高い若者を動かし、ソーシャルメディアを中心に議論が起こった。死刑執行日の数日前には、事前認可なしで抗議活動が認められる公園に400人ほどが集結。過去の死刑に反対するデモには50人も集まらなかったことから、活動家のなかからは大きな転機だという声も聞かれた。政府の調査によると、シンガポール人の多くは死刑制度を支持し、薬物の売人に対する罰として適切であると考えているが、若者の支持率は国民全体の平均よりも低い。

◆死刑は国民のため 法相が海外メディアで反論
 国連の専門家は、死刑判決は問題とされる薬物の量に対して不釣り合いだとしている。また、有罪となった人々はより大きな問題の犠牲者であるという意見もある(BBC)。死刑に反対するアジアネットワークは、シンガポール政府が死刑制度の維持と活用に固執することは、世界からの非難を招き、法の支配に基づく先進国としてのイメージを損なうだけだと声明を発表した(CNN)。

 こういった批判に、シャンムガム内務相兼法相はBBCのインタビュー番組を通して反論した。同氏は、死刑が麻薬密売人を作らないための抑止力になっており、麻薬乱用による死者を減らすことにもつながっていると主張。東南アジア地域には多くの違法薬物が出回っており、物流の中心地であるシンガポールは対策をしなければ泥沼にはまってしまうと訴えた。重要なのはシンガポール人の命でありシンガポール人を守ることだとし、違法薬物売買に科す死刑は正しい政策であることに何の疑念も持っていないと述べている。(チャンネル・ニュース・アジア

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Text by 山川 真智子