「避妊と同性婚も見直しを」米最高裁判事 中絶の権利の次の標的

クラレンス・トーマス最高裁判事(2021年4月)|Erin Schaff / The New York Times via AP

 アメリカ最高裁のサミュエル・アリート判事が「ロー対ウェイド」を覆す判断をした主旨を記した草案が、政治サイト『ポリティコ』にリークされたのは5月2日のことだ。その後、1973年に女性の妊娠中絶が憲法に記された権利として認められたその判決は24日、リークされた通り5対4で覆された。多数派はアリート判事とクラレンス・トーマス判事、そしてトランプ前大統領により近年指名された3人の保守派判事である。アメリカ最高裁では先例がある判決を覆すということは通常行わないばかりか、これは過去50年近く行使されてきた女性の権利だ。その権利が保守派判事により覆されたという事実は、最高裁判事のうち少なくとも5人が司法と宗教を分離していないという事実の表れにほかならない。NBCニュースによると、この判決により、全米で共和党多数派の13州では自動的に中絶禁止法が施行され、今後ほか9州でも禁止になる予定だという。

◆避妊の権利や同性婚も危機に
 アリート判事の判決文草案がリークされたことから、この判決が6月中に下るということはある程度予想されていた。しかしそれでも人々の怒りが鎮まるということはない。またその判決のほかに多くのアメリカ人を驚かせたのは、この判決に関する保守派判事クラレンス・トーマス氏による発言だ。ハフポストによると、同氏は多数派意見で「次はグリスウォルド、ローレンス、オーバーグフェルを含む実質的法の適正手続きの判例を考慮し直すべき」と発言したのである。

 グリスウォルドとは1965年の「グリズウォルド対コネチカット」で避妊の権利に関する判例、ローレンスとは2003年の「ローレンス対テキサス」で、全米で同性愛行為を合法とした判例、そしてオーバーグフェルとは「オーバーグフェル対ホッジス」で、2015年に同性婚を合法とした判例である。つまりトーマス判事は次に避妊の権利と同性愛・同性婚の権利をキリスト教保守思想に従って覆そうとしているのである。

 しかしトーマス判事の多数派意見には、異人種間結婚を合法とした1967年の「ラビング対バージニア」判決が抜けていたことが指摘されている。アリート判事が言うように「中絶の権利は元々アメリカ合衆国憲法には含まれていない」というのが正当な意見であれば、異人種間結婚や投票権なども同じように含まれていないことになる。つまり白人の妻を持つ黒人のトーマス判事は、自分が個人的に影響を受ける判決は避けているのでる。

Text by 川島 実佳