メインストリーム化する白人至上主義者の陰謀論「置き換え理論」 NY州銃乱射の背景

スーパーマーケットの外で祈る人々(5月15日)|Matt Rourke / AP Photo

 現地時間の5月14日、米国ニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットにて、黒人を狙った銃乱射事件が起こった。容疑者は自ら白人至上主義支持を自認する18歳の白人男性。この事件の背景には、昨今、フォックス・ニュースなどによってメインストリーム化している「置き換え理論(replacement theory)」という主張が存在する。事件の詳細とメインストリーム化する白人至上主義の主張とは。

◆周到な準備を経ての犯行
 事件は土曜日の午後2時半ごろに起こった。容疑者として逮捕されたのは、ニューヨーク州コンクリン在住のペイトン・S・ジェンドロン(Payton S. Gendron)。ジェンドロンは200マイル(約320キロメートル)離れたバッファローまで車を走らせ犯行に及んだ。容疑者は事件現場となったトップス・フレンドリー・マーケット(Tops Friendly Markets)に防護服に身を包んだ姿で現れ、駐車場で発砲を開始。3名を殺害し、1名を負傷させた。その後、容疑者はスーパーマーケットに侵入し、元警官の警備員との撃ち合いとなった。しかし、容疑者はヘルメットを被り、防護服に身を包んでいたため、ダメージを受けることなく攻撃を続けたとされている。また、ジェンドロンはカメラを着用して、犯行の様子をライブストリーミング・サービスのトゥイッチ(Twitch)上で中継していたことが確認されている。同サービスは、映像が今後再生されることがないように最善を尽くしていると発表している。この銃乱射によって10名の死亡が確認された。

 ジェンドロン容疑者がオンライン上で公開した672ページにわたる声明文によると、容疑者は少なくとも5ヶ月前から準備し、今回の犯行に至ったようだ。メッセージの多くは、アプリケーション「ディスコード(Discord)」上で公開されていた。メッセージによると、黒人が大多数を占める地域かつ自宅から最も近い場所として、ジェンドロンは犯行に及んだスーパーマーケットを第1標的と選んだとしている。容疑者は、ニューヨーク州のほかの2つの場所も、攻撃目標として計画し、犯行ルートおよびタイムラインを準備していたようだ。もしほかの2つの場所での犯行が実施されていれば、少なく見積もって40近い犠牲者が出ただろうと、ガーディアンは推測する。

 容疑者はジップ・コード(Zip Code、郵便番号にあたる数字)に基づき、最も黒人(アフリカ系アメリカ人)が多く居住する地域を割り出したとする。2020年時点の国勢調査によると、今回標的となったスーパーマーケットがあるジップ・コードにおける黒人の割合は78%。ニューヨーク州内において最も高い数字である(CNN)。容疑者は犯行前、3度スーパーマーケットの下見調査を行っていたようだ。

Text by MAKI NAKATA