「買収されているのか」ロシア擁護の米テレビ司会者に非難の声

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 ロシアによる2月24日のウクライナ侵攻後、アメリカでは反ロシア感情が急激に高まっている。そのようななか公的にロシア擁護を続ける人物に対し、ロシアに買収されているのではといった疑いがかけられるような風潮になっている。

◆バイデンとNATOを批判する「ロシアのプロパガンダ」
 ドナルド・トランプ前大統領は在任時、プーチン大統領を敬愛していることを公言し、親ロシアの姿勢を取っていたことから、それに倣ってトランプ派議員や同氏支持者の間でも、以前よりロシアやプーチン大統領を擁護する声が大きくなっていた。それがウクライナ侵攻後はアメリカで一種の「踏み絵」のような存在となっており、公的にロシア擁護を続ける議員やジャーナリスト、エンターテイナーなどに対し、同国に買収されているか、または工作員ではないかという疑いがかけられるようになった。もちろんその筆頭はウクライナ侵攻でプーチン氏を「天才だ」と呼んだトランプ氏だが、そのトランプ氏でさえもさすがに劣勢だと感じたか、最近では公にロシアやプーチン氏を称賛する言動は避けている。

 そのようななか、いまだにロシア擁護を続けている人物がいる。FOXニュースで、右派向けトーク番組を持つタッカー・カールソンだ。タッカー・カールソンは現在の状況が起こる2年半ほど前の2019年11月、自身の番組内でゲストに対して「なぜ私がウクライナとロシアの争いについて気にかけなければならないのか? なぜ私はロシアを支援してはいけないのか? 私はロシアの味方だ」などと発言。当時、彼の発言に眉をひそめた人々も多かったが、その時点では軍事侵攻なども起こっておらず、またトランプ大統領就任中だったこともあり、批判はあったものの、とくに大きな問題にはならなかった。

 しかしタッカー・カールソンはロシアがウクライナに侵攻後、無差別攻撃を繰り返し甚大な被害が出ているいまでさえも同国援護の発言を続けており、そしてロシア側がそれをプロパガンダに利用していることも明らかになっている。米誌マザー・ジョーンズによると、ロシア政府は3月3日、国営メディアに向けてタッカー・カールソンの番組の内容を多用するよう要請するメモを送ったという。

 アメリカは北大西洋条約機構(NATO)の主要メンバーであり、ウクライナ侵略が理由で石油や天然ガス輸入の禁止やオリガルヒやロシア政府関係者の資産凍結、同国内の銀行との取引停止をはじめ、すでにロシアに対する厳格な制裁を実施している。ロシアがタッカー・カールソンを押すのは、彼が自分自身の番組でウクライナ侵攻に対するロシアの立場を擁護し、バイデン政権やNATOの姿勢を批判していることからである。

 ロシア政府のメモには、タッカー・カールソンによる「アメリカはもし隣国のカナダやメキシコとそのような状況になったらどうするつもりか」という発言も含まれていたという。実際にアメリカはカナダやメキシコと多少の問題はあれど友好的な関係を築いており、お互いを攻撃したり、属国にしようとしたりする気配もないため、彼の主張は的外れである。しかも現在の状況でロシアを擁護するという姿勢には何らかの裏があるのではないかと疑われている。

Text by 川島 実佳