タイム誌「今年の人」イーロン・マスク氏に米国人がしらける理由

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◆「世界一リッチな人」が税金を払わず批判
 イーロン・マスク氏をとくに批判しているのが、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員である。ウォーレン氏やバーニー・サンダース上院議員、アレキサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員などの民主党プログレッシブ派の議員は、マスク氏やベゾス氏のような桁違いの大金持ちが、税制の抜け道を使って所得税支払いを逃れていることに疑問を抱き、2人のような人々を対象としたいわゆる「金持ち税」を提案しており、マスク氏はこれに反発している背景がある。

 今回マスク氏が「今年の人」の選出されたことで、ウォーレン氏とマスク氏の間で議論が再燃。ウォーレン氏はツイッターで、マスク氏の記事とともに「今年の人が税金を払い、ほかの皆にたからないように、不正な税制を変えよう」とツイート。するとマスク氏は翌日、「(自分の不正と)重ね合わせるのはやめろ!」と、ウォーレン氏がネイティブアメリカンの血を引いていると嘘をついて不正を働いた、というFOXニュースの記事をリツイートした。しかしマスク氏はここで関連のない記事をリツイートして話を逸らすのではなく、ウォーレン氏の言ったことが事実でないと思うなら、自分の立場をきちんと説明すべきだろう。

◆連邦政府の援助を受けながら「BBB法案」には反対
 またマスク氏は、アメリカの一般家庭を助け、インフラ整備、気候変動対策に取り組む「ビルド・バック・ベター」法案にも反対している。CNBCによると、マスク氏は「正直、私ならこの法案全体をやめにする」「通過させるな、それが私が推薦することだ」と話したという。同記事によると、マスク氏の言い分は「連邦政府の赤字は狂っている」というものだというが、この法案が通過することで、マスク氏やベゾス氏のように、現在所得税を支払っていないビリオネアが税金負担を強いられることを避けたいのが本音だろう。ちなみに、アメリカ連邦政府の現在の赤字は、トランプ政権時代の税制改革で、大企業や、マスク氏を代表するビリオネアとミリオネアの税負担を減らしたことが大きな原因である。

 実際、マスク氏がCEOを務めるテスラは、オバマ政権時代に連邦政府から多額の補助を受けている。テスラは2010年、エネルギー省から4億6500万ドルもの融資を受けており、それがなければ現在の同社はとっくに倒産していたかもしれない。

 元々南アフリカ人で、アメリカに移住してチャンスを掴んだマスク氏が、世界で最もリッチな人となったいまになって、彼にチャンスを与えた国でほかのアメリカ人が恩恵を受ける法案に反対するのは、まさに恩を仇で返す行動にほかならない。彼が「今年の人」となったことに鼻白んでいるアメリカ人が多いのには、そういう背景があるのだ。

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Text by 川島 実佳