異国で「見えにくいDV」被害の日本人妻……別居後も子とともに続く苦しみ

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◆家庭裁判所は虐待を軽視
 物理的に離れたことで夫の「静かなモラハラ」は少なくなったように思えたが、カレンさんの精神的苦痛は続いている。むしろ、公的機関を含めた他者を巻き込んでより複雑になっている。

 ある日、夫宅でユウちゃんに時々暴力が振るわれていたことがわかった。夫による子供への身体的暴力は一時的なものだと思ったが、そうではなかった。何よりの証拠は、ユウちゃんの体にあった青あざや怪我だ。ユウちゃんは、暴力のことをカレンさんに話すとカレンさんが悲しむと思い、ずっと我慢して黙っていたらしい。ユウちゃんが夫宅へ行くことを拒めば状況は変わったかもしれないが、欲しいものを何でも買ってくれたり旅行に連れて行ってくれたりと、父親の優しい面も見てきたユウちゃんの心は不安定で、第三者にも相談できなかった。

 カレンさんは暴力をやめさせようとしたが、それを証明するのは困難を極めた。まず、児童保護局に相談したが、カレンさんが話していることは作り話で夫を悪者にしようとしていると言われ、信じてもらえなかった。ユウちゃんを診察した病院の医師も頼れなかった。夫の暴力でユウちゃんがひどい怪我をした際、カレンさんが病院に連れて行ったが、医師は診断書に、虐待の疑いがあることを明確に書かなかった。医師は児童保護局には通報したものの、児童保護局は何の措置も講じなかった。そして、カレンさんは、ユウちゃんへの虐待のことをうやむやにするような態度を取った医師に抗議した。しかし、医師はカレンさんの話は意味不明だと真剣に取り合ってくれなかった。

 カレンさんは警察にも訴えたが、警察は児童保護局に電話をした後で、「親権の係争中は何もできない。子供自身が警察署までやって来て虐待を通報したら措置を取る」とカレンさんに告げた。

 さらには、家庭裁判所でも、児童保護局と同様に、ユウちゃんへの虐待のことは軽視された。カレンさんが親権を全面的に取りたいがために嘘をついて夫の形勢を不利にしようとしている可能性があると受け取られてしまうそうで(実際、嘘をついて有利になろうというDV被害者もいる)、カレンさんの弁護士は子供の虐待のことにはあまり触れず、子供をしっかり育てられるというカレンさんの責任能力を強調し続けた。

 カレンさんは「虐待の被害者を助けるべき機関の人たちは、自分たちの仕事をきちんとしているように見せているだけです。家庭内暴力にどう対処すればいいのかわかっていません。そのため被害者は、たとえ加害者と別居したとしても、法的に正当化された精神的・経済的暴力の渦へ突き落とされていくのです」と話す。

 カレンさんが屈することなく訴え続けたおかげで、ようやく昨年、家庭裁判所はカレンさんと夫の2人に精神鑑定を受けるよう指示した。結局、夫が自己愛性パーソナリティ障害であり、カレンさんは正常であることが判明した。それでも、家庭裁判所は決定を変更せず、ユウちゃんは1週間の半分は父親の元で暮らしている。

 ちなみに、モラハラには自己愛性パーソナリティ障害が関係していることが少なくなく、それに関する日本語の書籍や記事はいろいろある。日本でも、モラハラが離婚の要因になるケースは多数あるが、自己愛性パーソナリティタイプのモラハラだと、モラハラの認定は非常に難しくなるという。

Text by 岩澤 里美