異国で「見えにくいDV」被害の日本人妻……別居後も子とともに続く苦しみ

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◆被害者が加害者にコントロールされる
 当時、カレンさんには夫からモラハラを受けているという認識がなかった。そのことに驚くが、モラハラについての著書もあるカウンセラーの谷本惠美氏は、次のように指摘する。カレンさんの夫のように、とても丁寧で知的な言葉で相手をコントロールしようとする「静かなモラハラ」においては、被害者は「自分が壊されていることに気付きにくく、とても厄介」なのだという。加害者は、モラハラのターゲットである被害者が罪悪感を抱くようにうまくコントロールしていく。

「夫は悪くない、自分がおかしいのだ」と信じ込んでいたカレンさんを救ったのは、あるとき手にした女性向けの雑誌だった。自分と酷似した状況の女性の話が載っていて、夫にふと違和感を抱いた。近所に住む日本人の親友に話すと、しばらくユウちゃんと一緒に親友の別宅で過ごせばいいと提案してくれた。

 カレンさんは少し悩んだがユウちゃんとその別宅に行き、夫にきちんと連絡した。1週間ほど過ごすと気持ちが落ち着き、「あなたの言動がおかしいと思う」と夫に向かって指摘した。

◆別居により経済的窮地に
 変化を見せたカレンさんに対し、夫はすぐさま法的な別居を突きつけてきた。夫が家を出て別居生活が始まるとともに、離婚への手続きがスタートした。家庭裁判所の判断により、親権は半々で、ユウちゃんは2人の間を行き来することになった。財産や親権について折り合いをつけたくない夫は離婚手続きを長期化させ、カレンさんの母親としての権利を次々に奪っている。

 別居により、カレンさんは経済的な面でも非常に苦しくなった。夫の事業を手伝っていたカレンさんは微々たる給与しかもらっていなかった。そんなカレンさんに対し、夫はユウちゃんの公的住居権を獲得しつつも、裁判官にかけあってユウちゃんの習い事や健康保険料をカレンさんに強制的に支払わせた。夫はカレンさんに最低限の養育費しか払わず、いまでは、夫にその義務がない上に、裁判官は夫が国支給の児童手当を全額受領することを許可している。カレンさんには家庭裁判所への費用や弁護士費用の負担もある。こうしてカレンさんの別居後の借金はどんどん膨れ上がり、差し押さえを受けたこともある。

Text by 岩澤 里美