デルタ株収束の南アフリカ、ワクチン接種状況と反対デモ
◆ワクチン接種のインフラ状況
南アフリカ政府は、新型コロナウイルス関連情報の専用サイトにて、ワクチン接種状況を日々更新し、公表している。9月21日時点のデータによると、南アフリカでは1636万のワクチン接種が行われた。少なくとも1回のワクチン接種が完了した割合は人口の約2割となっている。南アフリカでは、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ファイザー、シノバック、アストラゼネカの4社のワクチンが承認されているが、現在展開しているのはジョンソン・エンド・ジョンソンとファイザーの2社のものがメイン。新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組みであるコバックス(COVAX)経由の手配は一部で、主に製薬会社からの直接取引もしくは米国からの寄付によって、必要なワクチン量を確保している。
ワクチンの展開は、医療関係者や高齢者などを優先して進められてきたが、現在は18歳以上の大人であれば誰でもワクチンを接種することが可能で、南アフリカに滞在しているすべての大人が対象だ。専用ポータルに氏名、ID(パスポート)番号、電話番号などの基本情報を登録するだけで、在留許可証などを持たない外国人でも無料でワクチンを受けられる。当初は登録後、順番が回ってきた時点で登録した携帯番号にショートメッセージ(SMS)が送信され、指定された日時・場所に従ってワクチンを接種するという仕組みであった。しかし、現在は十分なワクチン量が確保されたため、ポータルに登録さえしていれば、基本的にどこの接種会場でも予約なしでワクチンが受けられる。
政府は、南アフリカの大手保険・金融会社ディスカバリーなどと連携し、いくつかの大会場を設置している。筆者もケープタウン市の中心部から車で15分ほどの距離にある大会場にて、ファイザー社のワクチンを接種した。スタッフがステップごとに待機し、非常にスムーズなオペレーションで接種が完了。ステップは、ポータル登録情報の確認、情報再確認とワクチン接種記録カードの作成、公立医療機関から派遣されたナースによるワクチン投与、待機場所での15分の待機という4ステップ。記録カード作成とナースのステップはそれぞれ20ブースほど設置されており、登録・接種などに携わるすべてのスタッフが、それぞれのiPadを操作する流れ。アップル・ストアのジーニアスバーなどとさほど大差のないオペレーションだ。
政府が主導するワクチン接種促進キャンペーンは、丁寧なコミュニケーションが求められる。南アフリカでは、前述の新型コロナウイルス関連情報の専用サイトにおいて、ワクチンに関するさまざまな情報を展開している。サイトではワクチンの基本情報に加え、副反応、政府のワクチン展開戦略、ワクチン接種方法・場所などの詳しい説明、フェイクニュースやデマに関する内容が細かいQ&A形式で展開されている。
一方、ワクチン反対派も他国同様に存在する。南アフリカではワクチン接種は義務付けられてはいないが、政府が主導するワクチン接種キャンペーンに対して、「自由を奪う行為」などとして反対を訴えるプロテストなども起こっている。ケープタウンの海岸沿いの遊歩道では、先日約600人規模のプロテストが行われた。参加者の主張は必ずしもワクチンそのものに反対するものだけではない。政府に対するわだかまりや不信が背後にあったり、陰謀説・デマに影響されたりしたような意見表明も混じっている。南アフリカは11月に選挙を控えており、コロナやワクチンといった保健衛生課題が、より政治的なトピックとして利用されるといった状況が懸念される。
南アフリカは、アフリカのなかではワクチンの確保が進んでいる国だが、アフリカ全体ではまだワクチンの供給量は足りていない。世界各国の平均では3割以上の人がワクチン接種を完了しているが、アフリカ全土ではその率は4%に満たない。ファイザーのCEOアルバート・ブーラ(Albert Bourla)は、途上国においては、ワクチン忌避の動きがより強いと見込まれるといった内容の根拠のない発言をし、アフリカなどの途上国にワクチンを優遇しない動きを正当化するものだとして問題にもなっている。ワクチン反対の動きは必ずしも南アフリカ特有のものではなく、欧米で見られる反対・抗議行動と大差はない。ワクチン反対派の動きが、アフリカ諸国へのワクチン供給をさらに鈍化させるといった状況はあってはならない。
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