タリバンが奪ってきた住民の人権とは? 旧政権時、その後の支配地域で
◆国際NGO報告書にみる、タリバンによる差別
過去約20年の間に再び勢力を増したタリバンは、今回復権する以前、支配下に置いたアフガニスタンの地域で女性だけでなく男性にも制限を課してきた。
その様子は、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチによる報告書「『お前に文句を言う権利はない』:タリバン支配地域のアフガニスタンにおける教育、社会的制限、そして司法の実態」(2020年6月)に詳しくまとめられている。
本報告書は、2019年1月から10月に、アフガニスタン南部のヘルマンド州、カブールに隣接する中部のワルダック州、北部のクンドゥズ州で行った138件のインタビューをまとめたものだ(対面インタビューを受けた人は120人)。タリバンの幹部や戦闘員には彼らの政策について尋ね、地元住民にはタリバン支配下での日常について聞いた。住民は年齢や職業が異なる人を選び、タリバンの刑務所の元収容者やタリバンによる虐待の目撃者なども含まれている。3州で働くNGOの関係者にもインタビューした。
報告書は、タリバンによる抑圧を3つにまとめている。1つ目は、やはり女子の教育だ。2002年以降、アフガニスタン政府の支配下にあった都市では何百万人もの少女たちが学校に通った。しかし、治安の悪化や政府の資金不足で、2014年以降、学校に通う女子の数が減り始めた。報告書では、タリバン幹部たちは女子教育を認めず、一握りの幹部が思春期以降の女子の通学を許可しているのみだとしている。たとえば、ヘルマンド州のタリバン支配地域では、女子のための小・中学校が機能していないところがあった。
社会的な制限としては、一部のケースを除き、民間人でも軍人でもアフガニスタン政府との接触を一切禁止し、接触した者は無期懲役が科されるか即刻処刑される可能性があった。ワルダック州では、政府軍兵士に食料を提供した住民が「今度やったら厳しい罰を与える」とタリバンに脅されたという。タリバンの軍事活動に対する批判も厳しく禁じられた。住民たちはタリバンの残虐な行為を批判すれば報復される(スパイだと非難されたり殴られる)可能性があるため、批判できる状況になかった。またタリバン幹部たちは、住民の訴えを聞く耳を持たない。コミュニティを自分たちの味方か敵かのどちらかと見ており、自分たちへの批判は敵に加担している証拠だと考えているからだ。
女性の服装を指定したり、外出時に男性同伴のルールを強要したタリバンもいた。男性も髭を剃ることを禁じられたり、アフガニスタン政府の軍人と似た服装をすることも禁じられた。西洋的な服装を好んでいた男性たちは、タリバンに批判されるのを恐れ伝統的な服装に変えた。テレビやスマホの使用が禁じられた地区もあった。タリバン支配下の地域では、旧政権時代から続く「道徳警察」という役人が巡回して、住民がそれらのルールを守っているかどうかを監視していた。
タリバンが、どの程度厳しくこれらの規則を課しているかは州によって異なり、3州のうち南部のヘルマンド州が最も厳しく、北部のクンドゥズ州は緩めだったという。全体として、旧タリバン政権に比べ、違反行為に対する公的な処罰は少ないものの、重大な違反に対しては投獄や体罰は当たり前だった。
司法に関しても、適正な手続きで法に守られるということはほとんどないという。政府の裁判所では汚職が蔓延していたとされ、2005~2007年のタリバンによる人権侵害の様子をまとめたアムネスティ・インターナショナルの報告書『アフガニスタン -友人以外は敵:市民を虐待するタリバン-』でも、旧タリバン政権の崩壊後、アフタガニスタン政府は治安回復を果たせず、行政や司法が軟弱で腐敗していたと述べられている。タリバンは治安の空白を埋める役割を果たして各地でレベル別(地方から州まで)の裁判所を作り、それらは民事事件も刑事事件も扱ってきた。しかし、迅速に判断が終わるものの、殴打やほかの拷問で自白を強制することもよくあるという。
女性もタリバンの裁判所を利用でき、女性による家庭内暴力の訴えもあるが、タリバンの裁判所は家庭内で解決するように仕向け、結局女性は暴力を受け続けることになってしまう。ただし、政府の裁判所でも、家庭内暴力は家庭内で解決するように仕向けたという。
タリバン新政権では、こうした住民への制限や差別が再び復活するのだろうか。
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