前大統領収監で大規模暴動 南アフリカの「法の支配」と社会不安
在任中の汚職疑惑に関する取り調べに応じなかったため、法廷侮辱罪の有罪判決を受けていた南アフリカの前大統領ジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)が警察に出頭し、収監された。これを受けて、ズマの支持者らが暴動を起こし、南アフリカの一部の地域で抗議活動や略奪行為が発生。収監は暴動の引き金となったものの、暴動と社会不安の背景にはパンデミックでさらなる打撃を受けた経済状況、貧困、飢餓、政府に対する不満などがあるという見方もある。ズマに対する判決と暴動の内容とは。
◆法の支配をめぐる争い
南アフリカのズマ前大統領は、2009年から2018年までの9年の在任期間中の汚職疑惑に関する取り調べに関して司法の命令に従わなかったため、6月29日、憲法裁判所はズマに対して法廷侮辱罪の有罪判決を下し、禁固1年3ヶ月の実刑を言い渡した。そして今月7日、逮捕される期限を目前に、ズマは警察に出頭し、収監された。4ヶ月後以降、仮釈放の対象となりうる。一方、副大統領であった1999年の収賄容疑の裁判は継続中だ。
今回の裁判において、シシ・カンペペ(Sisi Khampepe)裁判官は、ズマに対して「猶予なしの禁固(unsuspended committal)」という断固たる判決を下した。本件は特異で前例のないケースとして扱われている。実際、判決書には「特異(extraordinary)」という単語が6回、そして「前例のない(unprecedented)」という単語が13回使われている。また、ズマが法廷侮辱罪を犯したという事実には疑う余地なしとした上で、ズマの露骨なやり方は特異かつ前例がないと書かれている。ちなみに、9名のうち2名の裁判官は、この猶予なしという点に対して異議を唱えた。
判決書では、猶予なしの判断に至った説明の一部として、本件の例外的な特徴についても述べられている。一つは、ズマが司法や裁判所に対しての攻撃的な声明を発信し、司法の正当性を弱体化するような攻撃を繰り返した点。もう一点は、ズマが前大統領であり、いまだに公人として影響力を持ち続けているという点だ。ズマが司法に従わなかった罪が免責されることがあれば、法の支配が著しく脅かされることになる。今回の判決には、多大な権力を持つズマ前大統領であっても、法の支配に逆らうことができないということを改めて示すという意義があった。
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