ミャンマー、深刻な感染急拡大 医療崩壊、クーデター影響広範に

ヤンゴンの火葬場の外で待つ人々(7月14日)|AP Photo

◆軍事政権と敵対する医者たち
 同国ではほぼ90%の町で感染者が出ており、「国家行政評議会(SAC)は、新型コロナウイルス感染数増加への対処(中略)ができないと認める」発言をしている(イラワジ、7/14)。病院も診療所も検疫センターも満員で、人々は自宅で療養することを余儀なくされていて、それは重症患者であっても例外ではないという(同)。

 もともと同国の医療体制は十全であったとはいえないが、医者の数が現在、これ程にも足りないのには政治的な理由がある。ミャンマーでは、国民の大半が、軍のクーデターと2月に誕生した軍事政権を支持しておらず、抗議のデモと政権との争いが続いている。政治囚支援協会によれば、2月1日から7月13日までの間に軍事政権に殺害された人は906人いて、いまも5239人が拘留されている(イラワジ)。

 医療関係者も例外ではなく、これまでに157人の医者が逮捕され、数百人が指名手配中だ。軍は、医療施設の襲撃や、救急車への発砲、医者への攻撃なども繰り返して行っており、多くの医療従事者は、軍への抗議のため州立病院で働くことを拒否している。(ガーディアン)

 なかには、当局に隠れて電話診療を行う医者もいるが、多くは逮捕などを恐れ病院に戻らず、たとえば、「ミャンマー最大の都市にある西ヤンゴン総合病院には400人いるはずの医療従事者が40人しかいない」状態だ(ロイター、7/14)。

◆酸素を求める人々
 そのような事情で、多くの場合、自宅療養しか手のない市民らは、酸素ボンベを手に入れようと苦労し、供給業者の前には長い列ができている(AFP、7/17)。ガーディアン紙によれば、値段は1本243ドル(約2万6700円)まで高騰しているという。

 その苦境に追い打ちをかけるように、当局は10日、民間の酸素工場が市民に直接販売することを禁止し、ヤンゴンでは酸素を求める市民らに兵士が威嚇発砲までした。当局は、個人への酸素販売が医療機関に酸素不足をもたらしていると、個人への販売禁止の理由を説明しているが(イラワジ)、自宅療養しか選択肢のない市民にとって、酸素不足は時として死を意味する。

 11日に亡くなった学生は、亡くなる前にフェイスブックに「血中酸素飽和度が55%まで下がった。酸素が必要です。うちの年寄りたちも必要としている。取りに行くから、お願いです」と11回も投稿していた(ガーディアン)。

Text by 冠ゆき