独教会の性虐待は組織的だった? バチカンが調査のため大使派遣
◆組織的に行われていた?
ドイツカトリック教会の最有力者でフランシスコ教皇の盟友でもあるミュンヘン・フライジング大司教ラインハルト・マルクス枢機卿は、2018年秋に発表された研究報告書「ドイツ司教協議会の領域におけるカトリック司祭、助祭、男性修道者による未成年者への性的虐待」(MHG研究)の報告を受けて、「我々は長年、性虐待に目を背けていた」と自省した。
この調査では、聖職者による未成年者への性虐待は組織的に行われていることが明らかになった。1946年から2014年までの期間、少なくとも3677人の子供や若者と1670人の聖職者が子供たちに性虐待を行ったという(ドイチェ・ヴェレ)。
また、連邦政府の虐待防止委員会は、性虐待調査報告書を3月中旬に発表した。この研究では、なぜ聖職者は、被害者の子供たちをこれほどまでに厳格かつ冷酷に扱ったのかという疑問に焦点を当て、性的虐待の結果として、身体的・精神的な苦痛を受け、人生が破壊されてしまった子供たちを考察した。
これによると、150人以上の聖職者が何十年にもわたって子供たちに性的虐待を加えてきたことが判明した。1975年までさかのぼり調査したところ、被害者は300人以上にのぼるといい、そのほとんどが少年だった。教会内の同性愛者も性的虐待にあっていた事実も判明し、水面下には数知れない被害者がいるようだ。
なかでもヴェルキ枢機卿の前任、2017年に亡くなったドイツの保守的なカトリックの象徴とされるヨアヒム・マイスナー枢機卿を糾弾する声が高まっている。
この性虐待調査の指揮を執ったビョルン・ゲルケ弁護士は、ケルン大司教区における虐待の隠蔽について聖職者や教会にとって問題や危険をもたらす可能性のある「虐待や隠蔽が記録されている当事者の人事ファイル」の存在も突き止めた。これを「ポイズンファイルだ」と呼び、大きな波紋を投げかけた。(ドイチェ・ヴェレ)
◆マルクス枢機卿辞任申請でカトリック教会の行く先は?
バチカンから派遣された全権大使の調査がケルンで進むなか、「マルクス枢機卿がミュンヘン・フライジング大司教辞任をフランシスコ教皇に願い出た」という衝撃的なニュースが入った。辞表は5月21日に提出され、教皇の許可を得て6月4日に公表された。2012年から2020年2月までドイツ司教協議会の会長を務めたマルクス枢機卿は大きな影響力を持つ人物。これを受けて、ヴェルキ枢機卿への重圧はさらに強化されるだろう。
マルクス枢機卿は「聖職者による性的虐待問題への対応の誤り、教会の組織運営上の失敗の責任をとるため」と、辞任の理由を説明した。さらに、過去10年間の調査や専門家の報告書を見ると、「個人的な失敗や管理上のミス」だけでなく、「組織的、システム的な失敗」もあったことが一貫して示されていた点を指摘した。
「今回の決断は個人的なもので、決して職責に疲れたわけではなく、これからも積極的に教会に貢献していきたい。(中略)教会や聖職者の信望が一般社会で著しく損なわれている。(中略)なかでも最大の過ちは性的虐待の犠牲者を無視し見過ごしてきたこと。辞任は責任を負う意志を表明した行為で、教会の新たな始まりへの私なりのサインである(後略)」(教皇へ宛てたマルクス枢機卿辞任申請書簡より・カトリック教会公式サイト)
週刊シュピーゲル誌は「教会は中世と同じように、全体主義的な構造を持ち、非民主的ですべてはそのままにしておこうという意志を持って行動し続けているという結果に至った」と報道している。(シュピーゲル誌5月22日号)
バチカンは6月1日、聖職者による児童虐待を禁ずる条文を聖職者法に加え刑法を強化した。だが、性虐待はプロテスタント教会でも起こっている。教会の信頼性を取り戻すには、長く険しい道のりが待ち構えている。
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