アジア系差別が多い地域の特徴とは? イタリアの事例からわかったこと

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◆イタリア、高まる失業不安と指導者の偏見が引き金に
 ヨーロッパで最初に多数の感染者が出たイタリアでも、アジア人(中国人)に対するあからさまな差別やいじめが相次いだ。イタリアには現在30万人以上の中国人が住んでいる。米ペンシルベニア大学政治学科のガイ・グロスマン教授らは、イタリアでのアジア系差別の広がり方の特徴がわかれば、ほかの感染地域で起きている差別の理解に役立つだろうと研究を行った。

 2007年から2020年3月までのイタリアでのヘイトクライム(暴力および暴言)の件数を入念に調べた結果、二つの点が明らかになった。

 一つは、ヘイトクライムが感染拡大をきっかけに増え、とりわけ、感染者や感染による死亡者が多い場所ではなく、都市封鎖により失業率が高くなることが予想された地域で目立った点だ。

 ヘイトクライムは、政治的目的を達成するためのテロ行為がきっかけで増加することは知られているが、個人の経済状況を脅かし、不安やフラストレーションを募らせる出来事によっても増加する。一般的に、ヘイトクライムの加害者は若い男性で、新型コロナウイルス感染拡大では、観光業、輸送業、そのほか深刻な影響を受けている業種でまさに若い男性たちが失業する可能性が高いとグロスマン教授は説明する。観光業が経済を支えている地域では、都市封鎖が施行される前に、ヘイトクライムの増加が見られたという。

 教授は、かつて栄えたアメリカの重工業地帯を引き合いに出し、経済状況が徐々に不安定になった地域では、状況が変化したのちに、社会的少数派グループを攻撃する住人が現れる可能性があると指摘。今回のように非常に短期間で経済構造が変化した場合には、ヘイトクライムが急速に起きることが裏付けられたとしている。

 もう一つわかったことは、移民への偏見のみで悪質な差別行為が起きるわけではなく、指導者自身がもっている偏見が影響を与えている点だ。経済的に大きな打撃を受けた地域のうち、市長が極右の所では、アジア系へのヘイトクライムが非常に増加していたという。教授は次のように言う。

「テロ攻撃の後、市や国の指導者は地域の人たちをサポートするためにモスクを訪問した。そのように、指導者は差別行為を防ぐ役割を果たすことができる。しかし、極右の指導者は必ずしもそうするとは限らず、自身の偏見を主張することで指導的地位を保っているため、差別行為をなくすことを難しくしている」

 ドイツでも、感染拡大以来、アジア系差別は顕著になっている。ベルリン・フンボルト大学の調査によると、対象者700人以上の80%が2020年10月から12月の間に暴言や暴力を受けたという。「ウイルスについての報道では人種や文化と結びつけられ、アジア人に起因するとされることが多い。これが、日常的にどうアジア人に接するかに影響を与えている」と調査者は指摘している。

 ドイツでは、感染拡大以前、難民に対する暴力行為が増加していた。表面化している、そして公には把握されていないヘイトクライムは、被害者がどんな民族であれ、官民両方から撲滅するよう取り組んでいかなければ、エスカレートすることを避けられないのではないか。

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Text by 岩澤 里美