ミャンマー国民は国際社会を巻き込めるか ネット時代の民主主義

クーデターに抗議する大学病院職員(ヤンゴン、2月5日)|AP Photo

◆レジリエンスとインターネットを味方に
 クーデターを過去にも経験しているミャンマーだが、今回はインターネットとソーシャルメディアが普及している時代におけるクーデターだ。軍政権はクーデター後、インターネットなどの通信回線を遮断しているようだ。BBCによると、接続状況は場所などによって異なるようだ。人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国民がインターネットや情報回線をも確保できるように国際社会が働きかけをするように訴えた

 ミャンマーでは、クーデターが起こってからオフラインで使えるメッセージアプリBridgefyが60万回以上ダウンロードされた。ネットワークは復旧しているようだが、軍は通信会社を通じてフェイブブックを遮断したようだ。運輸・通信省によると、国内の「安定」を維持するために2月7日まで遮断するとしている。フェイスブックは、ミャンマーでもっとも高いシェアを占めるソーシャルメディアで、そのシェアは94%である。人によっては、フェイスブックが情報収集に関してインターネットとほぼ同義的な意味合いを持つ。

 一方、国民はレジリエンスを発揮している。ほかのアプリをダウンロードしたり、VPN回線を使ったりしてフェイスブックにアクセスしているようである。筆者の知人である現地ミャンマー人のフェイスブックページでも、いまのところアクティブに投稿が行われている。軍に対抗するため、ソーシャルメディアを活用したボイコット運動の拡散が起こっている。軍関連の製品をボイコットする「Stop Buying Junta Business」という運動によって、軍政権に対抗しているようだ(ミャンマータイムズ)。また「civil disobedience(市民の抵抗)」や「save Myanmar(ミャンマーを救え)」といったようなハッシュタグも拡散している

 クーデターが起こった当日、背後で軍による侵入が起こり、まさにクーデターのアクションが起こらんとしている最中、それを知らずに国会前の道路を背景にエクササイズ動画を撮影し、投稿した女性の動画が話題を呼んでいる。まるで合成されたような映像に懐疑的な声も上がったが、画像は本物の映像のようだ。画像を投稿したフィットネス講師のキンニンワイ(Khing Hnin Wai)は、これまでに何度もエクササイズ動画を投稿し、過去に同じ場所で動画を撮影したこともあるという。彼女は、政治的な意図やふざける意図があったわけでもなく、クーデターを知らずに動画を撮影し、その後ニュースでクーデターを知ったとコメントしている。サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、キンニンワイが知らずに動画で使用していたダンス音楽は市民と権威の対立を象徴しており、インドネシアでは警察の暴力に対するプロテストのアンセムとして使われる曲だという。

 世界中に拡散したこの動画は、人々がインターネットやソーシャルメディアに没頭している間に、リアルな世界において一部の権力が自由や民主主義を奪う可能性があるというリスクを示唆しているようなSF的な要素をもつ。同時に、日常生活を続ける国民がインターネットとソーシャルメディアを通じて、世界の人々と繋がることができるという潜在的なパワーを象徴している画像ともいえる。

 「(軍による独裁政権が終わり)ビルマは変化しているが、まだその成果は出ていない。(中略)一人一人がそれぞれの行動、そして選択に対して責任を持つこと。(政府は)人々が自由な社会の市民になれるように準備することで、自由な社会の形成を目指している。(中略)民衆は、自らの運命を自身で決断していくことができるような人々にならなくてはいけない」

 これは2012年9月にハーバード大学ケネディースクール(公共政策大学院)で行われた講演で、アウンサンスーチー自身が放った言葉だ。筆者もその場で聴講していたが、幾度となく繰り返される「自由な社会における市民(citizens of a free society)」という言葉が印象深い。独裁政権下、国民は責任ある大人ではなく、自分で判断したりできない未熟な子供のように扱われる。だからこそ、自ら判断し、責任をとることができる国民を育てることが重要だというのが彼女の主張であった。

 ロヒンギャ対応で人道的なリーダーという栄誉を失ったアウンサンスーチーに期待するのではなく、国民がムーブメントを作ることで国際社会を巻き込み、軍事政権に対抗して新しい民主国家を形成する。ミャンマーの未来は、政治家ではなく国民のレジリエンスと責任ある彼らの行動にかかっている。

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Text by MAKI NAKATA