米議会占拠事件で問われる、メディアと民主主義のあり方

Julio Cortez / AP Photo

◆マスメディアと世論形成
 トランプ支持者による議会議事堂の占拠に対するマスメディアの報道に関しても、興味深い指摘がある。ジャーナリズム、ダイバーシティ、平等といった分野の専門家である米ミネソタ大学教授のダニエル・キルゴ(Danielle Kilgo)は、今回の一件は、マスメディアがこうした事件をどのような形で報道し、どのように世論を形成するかという点において課題を突きつけたと分析している。メディアと社会運動を専門とするキルゴの研究によると、メディアによる暴動や抵抗といった社会情勢の不安定さの報道のあり方は、プロテストの目的に関する世論形成に影響する。昨今のBlack Lives Matterのプロテストなどでは、マスメディアはプロテストの目的や本質よりも、破壊的な要素を取り上げがちであったと彼女は指摘している。今回の動きは、権力に対抗するものではなく、大統領支持者による暴力と破壊行動であったため、その報道のされ方に関しても、これまでと違う動きが注目された。

 このトランプ支持者の行動をどう表現するかという点について、議会議事堂での出来事に関しては、ニュース報道ではプロテスト、集会、デモといった婉曲表現ではなく、包囲攻撃(siege)、反乱(insurrection)、暴徒(mob)といった表現が使われていたとキルゴは説明する。CNNの一部報道では、テロという表現も使われた。過去の報道では、保守派によるプロテストは、リベラル派のプロテストに比べて、不法妨害として扱われることが少なかったが、今回は違っていたようだ。

 6日の出来事をどう表現するかは、出来事のどの部分に焦点をあてるかによって変わってくるだろう。トランプ支持者たちは、議事堂に向かう前、暴動を煽ったとして問題視されているトランプ大統領による演説が行われた支持者集会「Save America Rally」に参加していた。その後、議事堂に向かい、一部の人々がセキュリティを突破して、侵入した。議事堂内では警官との衝突や破壊行為が行われた一方、自慢げに携帯で写真を撮ってソーシャルメディアにシェアしたり、ペロシ下院議長の机で満足げにポーズを取ったりするような行為もあり、暴徒的とは言い切れない行動も見られた。議事堂に押し入り、占拠するという違法行為を犯した人々であることは間違いないが、彼らとその行動をどう表現するかについては、簡単ではないようだ。

 現職大統領を支持する人々が起こした議事堂の占拠は、政府による抑圧や弾圧に対する人々の抗議ではなく、民主主義(民主的に行われた選挙結果)に対する抗議という、ある意味矛盾するような行動だ。今回の事件は、「民主主義を誇るアメリカではあり得ないはずの屈辱的な出来事」である一方、分極化した米国の状況がセンセーショナルな形で改めて露わになった出来事である。BBCのポッドキャスト「Africa Today」に出演した、ケニア人風刺漫画家・ジャーナリストのパトリック・ガタラ(Patrick Gathara)は、アメリカではあり得ないという考え方、つまりはアメリカ例外主義的な思考に対して疑問を呈した。たとえば、ケニアやほかのいわゆる発展途上国であれば、暴動的なものがまるで普通のことで、予期できるものとして報道されがちである一方、今回の米国での事件が「あり得ない」ものとして扱われる違和感についての見解を述べた。また、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報では、トランプ支持者の姿と、香港でのデモ隊を比較することで、中国政府による香港市民への抑圧を正当化するかのような記事も掲載された。

 事実ではない発言を繰り返したトランプ大統領だが、この4年間の任期中、ソーシャルメディアとマスメディアの放送時間を存分に利用し、支持者を煽動し続けた。結果、投票者の46.9%に当たる7422万人が、昨年11月の選挙でトランプ大統領に投票した。バイデン次期大統領就任後も、彼らがいなくなることはく、分極化したアメリカの現状がすぐに変化することはない。これからのアメリカの民主主義を考える上で、メディアの影響力は無視できないものであり、メディアのあり方については引き続き議論が続きそうだ。

【関連記事】
広がる選択肢——サブスクリプション型ジャーナリズムの可能性
誤情報拡散で民主主義の危機? バイデン政権「SNS規制」の可能性
なぜソーシャルメディアは民主主義にあまりふさわしくないのか?

Text by MAKI NAKATA