学歴社会の韓国、コロナ禍で教育格差広がる

AP Photo / Lee Jin-man

 韓国では4月、延期されていた新年度がリモート授業という形で始まった。低所得層の学生は学校教育を頼りにするほかないが、勉強に集中するのが難しい環境である。しかし彼らには、教育熱心な韓国で多くの家庭が利用しているような塾に通ったり、家庭教師を雇ったりする余裕はない。

 ハン・シンビさんのように、学生たちは勉強に身が入らず悩んでいる。

 ソウルに住む高校3年生のハンさんは、「オンライン授業は本当に不便でした。その期間中はまったく勉強に集中できなくて、テストの成績が落ちてしまいショックでした」と嘆く。

 韓国がパンデミック対策に奔走するなか、同国の子供たちは自宅で断続的に行われるオンライン授業を受けており、世界各国の学生たちと同様、リモートでの学習に悪戦苦闘していた。

 専門家は韓国の学生たちの成績について、教師との交流が減ったことや、パソコンやスマートフォンを使用するなかで集中力が途切れがちになること、さらに技術的な問題などもあって格差が広がっており、ハンさんのような所得の少ない家庭の学生たちは、よりいっそう不利な状況に追いやられていると指摘している。

 パンデミック以前に優秀な成績をおさめていた学生たちは、中流・上流家庭の出身が多いため、時間的にも成績をキープする余裕があり、困ったことがあれば家族の手厚いサポートも受けられる。

 アジア第4位の経済国である韓国では、どの大学に通うかによって将来のすべてが決まるといっても過言ではない。大学次第で出世できるかどうかも、社会的な地位も、結婚相手さえもが変わってくるのだ。

 ソウルで教育に関する活動を行う非営利団体、「World Without Worries About Shadow Education」の政策ディレクターを務めるグ・ボンチャン氏は、「学歴は、必ずしもその人の能力と一致するわけではありません。しかし、学歴と能力を同一視する間違った考え方が、この社会には広まっているのです」と言う。

 政府が5万1021人の教師を対象に実施し、9月に公表された調査結果によると、回答者の約80%が、成績上位の生徒と下位の生徒の差が広がっていると実感している。教育省はこの問題の解決に向け、小学校で不利な環境にある生徒2万9000人を支援する人材として、パートタイムの指導者を採用した。困難に直面している約2300人の高校生に対しては、一部の教師を向かわせ、一時的に一対一での指導を行っている。

 ほとんどの教師が、事前に録画した講義をアップロードする形をとっているため、ハンさんにはリアルタイムで質問する機会がない。しかしハン家には家庭教師を雇ったり、彼女を学習塾に通わせたりする余裕がない。友人も大半が同じ状況だ。

「ほかの人と自分を比べたいとは思いません。でも、お金にもっと余裕があれば、放課後にもたくさんのことを学べたのだろうとは思います……実際、塾に通って英語と中国語を勉強したかったです」と、ハンさんは言う。

 成績優秀な生徒からも、リモート授業がつらいと訴える声があがっている。

 ソウル近郊の高額な一流外国語学校に通う高校3年生のマ・ソビンさんは、「ひとつの場所に閉じ込められているようで、精神的に大きなストレスを感じました。友人と一緒にいられなかったので、なかなか勉強に集中できないのが最もつらい点でした」と話す。

 韓国では、5月から段階的に対面式の授業を再開。12月に行われる人生を賭けた国立大入試に向けた準備を進めるため、当局はまず高校3年生から対面授業の再開を許可した。2年生以下の生徒に対しても遅れて対面授業を再開したが、制限があり、現在も大半の生徒が定期的に自宅からオンライン授業を受けるよう求められている。

 6月には、12月の入試対策として行われた全国模試に、数十万人が参加した。模試では韓国語、英語、数学の主要3教科で、高得点を獲得した学生の数が増加した。前回の模試と比べて問題の難易度が低かったと思われる。

 しかし、最低点に終わった学生の数もまた増加しており、国会教育委員会のメンバーであるカン・ミンジョン議員は声明で、「教育の二極化が深刻化した」ことが伺えると指摘した。

 ソウルの民間学習塾「鍾路学院」のリム・ソンホ校長によると、パンデミックにより持つ者と持たざる者の間にある不平等は悪化しているため、パンデミックが長引けば今回のような教育格差も広がっていく恐れがある。

 政府が親と教師数十万人を対象に昨年実施した調査によると、韓国の学生の75%が何らかの形の民間教育を受けており、その費用は1ヶ月あたり平均377ドル(約4万円)。教育部と統計局が行った同調査ではまた、中所得・高所得の家庭が民間教育にかける費用は、低所得家庭の5倍にのぼることもわかっている。

 マさんの両親は、いずれも民間の英語学校で働いているが、1ヶ月に約200万ウォン(約18万円)を娘の民間教育に費やしている。学校の授業料と寮費は、年間2000万ウォン(約184万円)にのぼる。負担ではあるが、娘の将来における教育の重要性を考えればそれだけかける価値があると両親は言う。

「後悔はまったくありません。精神的なストレスも大きかったです。時間もないし、経済的な理由もあって、自分のためにしたかったことは、まったくできませんでしたが」と、父のマ・ムニョン氏は語る。

 3人の子供を育てるソウル在住のシングルマザー、Y.H.ユン氏は、息子たちを塾に通わせる余裕がない。働きに出なければならないため在宅学習の手助けもできず、息子たちが勉強を続けられないのではと心配する。

 しかしユン氏は、息子たちが立派な大学に入学できるよう、パンデミックのなかでも自身の置かれた状況に負けず、しっかり勉強するよう強く言い聞かせている。

 高卒で販売員として働くユン氏は、「子供たちにはただ、『大きくなったらお母さんみたいになりたいの?』といったことを言い聞かせています。私の親からいつも言われていたことです。それをいま、自分の子供たちに言っているのです」と話す。

By HYUNG-JIN KIM Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP