平和的なデモ隊に発砲 ナイジェリアの国家暴力を軽視してはいけない理由
「ナイジェリアが国民を殺害している(Nigeria Is Murdering Its Citizens)」。ナイジェリア人の著名作家、チママンダ・ンゴジ・アディチェ(Chimamanda Ngozi Adichie)が、米ニューヨークタイムズ紙に寄せた10月21日付のオピニオン記事のタイトルだ。トピックを深掘りし、オルタナティブな視点を提示する「スロー・ジャーナリズム」で知られる、オランダ発のデジタルメディア「コレスポンデント」の英語版の記者でもあり、作家・編集者としても活躍するナイジェリア人の若手活動家、オル=ティメヒン・アデグベイェ(OluTimehin Adegbeye)も、同時期に「ナイジェリアの人々が殺されている(Nigerians are being murdered)」としたタイトルの記事を発表した。これらは、10月20日に起こった、ナイジェリア警察の部隊SARS(対強盗特殊部隊、Special Anti-Robbery Squad)に対して平和的なプロテストを展開していた国民に向けて、軍と警察が無差別的に発砲した事件に関する強い抗議の表明である。世界各地でプロテストや警察の暴力が顕在化するいま、ナイジェリアでの事件とナイジェリア人たちの訴えこそ軽視してはならない。
◆#ENDSARS拡大化と政府の対応
SARSは1992年、おもにラゴスの治安維持のために結成された。1990年代にラゴスを含むナイジェリア南部で増加していた強盗犯罪に対して、当初は、通信傍受や逮捕のための追跡などを行っていた非武装の私服警官部隊であった。その後の10年間、SARSは徐々にその勢力を拡大し、殺人などより凶悪な犯罪にも関与するようになると同時に、検問や市民からの金の取り立てなど、権力を濫用する武装警官へと変化。違法な殺害、拷問、不当な逮捕などといったさまざまな人権侵害が、アムネスティ・インターナショナルの2016年の報告書で指摘されている。
アルジャジーラの記事や、米ヴォックスの記事とポッドキャストを通じて伝えられた、ユーラシア・グループ(国際情勢リスク研究に特化したコンサルティング会社)でアフリカ事業を率いるアマカ・アンク(Amaka Anku)の話によると、SARSは次第にインターネット詐欺の取り締まりにも関わるようになったという。そして、次第に不相応にお金を持っていそうな若者を無差別的にターゲット化。その背景には、ナイジェリアの経済成長やミドル層の増加がある。インターネットやラップトップなどがさらに普及し、テック企業やスタートアップが勢いを増した(IT/テレコム業界のGDP比率は2001年の1%から2018年には10%まで増加)。結果、合法的に稼いでミドルクラスに参入したテック業界の若者たちもが、SARSの暴力や不当な罰金要求などの被害にあうようになった。こうしたSARSの暴力が横行し、若者たちにとってこのイシューがもはや他人事ではないレベルとなり、2016-17年ごろからSARSの撤廃を要求する(End SARS)プロテストが始まった。そして今年10月、ある少年がSARSによって殺害されたとされる映像がバイラル的に広がったのを機に、ネット上と路上の両方でプロテストが拡大。インターネット上では、#ENDSARSのハッシュタグとともに、世界的にプロテストに賛同する声が拡散した。
プロテストの拡大を受け、政府は10月11日にSARSを解散し、新たにSWATという別名部隊を立ち上げることを発表。アムネスティによると、SARSの違法行為と免責や過去のプロテストに対して、政府は過去4回、SARSの改革を宣言してきたが、改革が実行されることはなかった。今回のSARSの解散も、プロテストを行う若者にとっては意味のない上部の対応でしかない。
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