ヨーロッパで増える、犬の連れ去り
7月下旬、飼い主が、スイス・チューリヒのショッピングセンターの出入り口につないでおいた8歳の盲目犬(犬種はハバニーズ)が姿を消し、録画ビデオにより高齢の女性がこの犬を盗んだことが判明した。
飼い主のリチャード・クラマーさんはすぐに警察に届け出て、警察は目撃者や関連情報を探し始めた。クラマーさん自身もいろいろな場所に告知を張り出し、ソーシャルメディアでも行方不明の知らせを拡散し、さらに獣医、動物病院、動物保護団体と動物救急団体にも連絡したという。警察は寄せられた情報をもとに、同市内に住む高齢の女性のアパートでその犬を発見し、犬は1週間しないうちに飼い主の元へ帰ることができた。
チューリヒ州の動物登録センターには、2020年7月だけで400件の動物(犬以外も含む)の行方不明が届けられた。400件は特別多いわけではないという(20 Minuten)。
◆各地で見られる「犬の連れ去り」
チューリヒ州の動物登録センターのように、スイスの各州にはペットが行方不明になったときに連絡できる公的な事務所がある。また、個人の寄付をおもな財源とする非営利団体のスイス動物登録センター(STMZ)もあり、行方不明の動物を探すのを手伝ってくれる。STMZは24時間電話がつながる体制だ。
STMZによると、2019年は全国から「行方不明になった」「見つけた」という届け出が合わせておよそ3万件あった。行方不明になった動物の8割は猫で、見つかった動物の内訳は、猫8千匹、犬500頭、爬虫類650匹、鳥類500羽、げっ歯類(ウサギやハムスターなど)200頭だった。発見された動物も多い一方、見つからなかった数も多い。
冒頭の犬の行方不明はいくつかのメディアが報道していた。大事件とはいえない本件がこうして特別なこととして取り上げられるのは、犬をさらう人がヨーロッパで増えているからだろう。
ドイツでは、ベルリンだけでも2018年までの6年間で300頭以上がさらわれたという(独紙ベルリーナー・モルゲンポスト)。ベルギーでは、全国レベルで2016年に250頭、2017年にほぼ470頭がさらわれたと届け出があり、飼い主の元に無事に戻ったのは3分の1だけだったという(ベルギードイツ語圏の公共放送BRF)。
また、オープンアクセスジャーナルMDPIの論文『Spatialities of Dog Theft: A Critical Perspective』 には、イギリスにおける犬の連れ去りについて詳しい情報が載っている。この調査では、イングランドとウェールズの44の警察署のうち41署から、3年分の犬の連れ去りの届け出件数を集めた。結果は2015年に1559件、2016年に1653件、2017年に1842件で年々増加していた。
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