晒される「カレン」と呼ばれる白人女性たちの暴挙

Laurie Skrivan / St. Louis Post-Dispatch via AP File

◆「カレン」の背景にある黒人差別の歴史
 アメリカにおいて、白人女性の告発により黒人男性が危険にさらされることはいま始まったことではない。有色人種に対する人種差別が横行していた公民権前の時代、アメリカ南部で黒人男性が白人女性に告発されることは「死」を意味することも多かった。なかでも最も有名なのは、1955年、ミシシッピ州の親戚を訪ねていた際に白人女性に向かって「口笛を吹いた」などと言いがかりをつけられ、女性の夫とその兄弟に誘拐されリンチ殺害されたエメット・ティルさんの事件だろう。

 ティルさんは当時まだ14歳で、逮捕された容疑者2人は白人の陪審員に無罪判決を受けた。女性はその後、ティルさんに関して嘘をついたことを認めたという。

◆マスクを着けず逆ギレする「カレン」
 人種差別的なニュアンスが強い「カレン」だが、最近では新型コロナウイルス感染予防のルールを破る白人女性がカレン呼ばわりされることも多い。ここでも、女性たちは「自分は特別」という態度を堂々と主張しているのが特徴だ。

 情報サイト『ザ・ブレイズ』は、カリフォルニア州ノースハリウッドの自然食品店『トレーダージョーズ』にマスクを着けず入店し、店員にマスク着用を促されると食品の入ったカゴを投げ落として「あなたたちは皆民主党の豚だ!」と叫ぶ女性について、またニューヨーク・ポスト紙(電子版)では、テキサス州ダラスのスーパーマーケットで同じくマスク着用を促されて逆上し、持っていた食品をばら撒いて口汚い言葉を叫ぶ女性について報道。前者は「カレン・オブ・サンフェルナンド・バレー」、後者は「ダラス・カレン」という呼び名をつけられている。

◆「カレン」摘発にソーシャルメディアが一役
 前述のタイム誌の記事では、アメリカの白人女性のこのような態度には人種差別の歴史と密接に関連していると解説している。黒人がまだ奴隷として扱われていた時代、アメリカでは黒人男性が白人女性に危害を加える「危険な」存在と捉えられ、白人男性は「か弱い」白人女性を守る存在と見られていたという。エメット・ティルさんのようなリンチ殺害事件がアメリカ南部で多数発生した原因にはそんな背景があるのだ。

 このような「カレン」たちがいまになってあちこちで出没している理由には、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任後、ことあるごとに白人至上主義者の味方をしているせいもあるだろう。現代におけるスマートフォンとソーシャルメディアは、アメリカにおける人種差別摘発にも大いに役立っているようだ。

Text by 川島 実佳