抗議デモ参加者に銃口、セントルイスの夫婦が威嚇

Laurie Skrivan / St. Louis Post-Dispatch via AP

 6月28日、アメリカ・ミズーリ州セントルイスで、通りをゆくデモ参加者に対し、白人夫婦が自宅前から銃を向けて威嚇する騒ぎが起きた。翌29日に担当弁護士が語ったところでは、夫婦はブラック・ライブズ・マター運動の支持者であり、この運動に反対する人々から英雄視されることは望んでいないという。

 インターネット上の投稿動画には、6月28日の夕方、市長の辞任を求めて市長宅に向けて行進するデモ隊が市内の富裕層が住むセントラル・ウェストエンド地区を通過した際、ルネッサンス・パラッツォ様式の広い自宅の前に立つマーク・マクロスキー氏(63)と妻のパトリシア氏(63)の姿が映っている。マーク氏はライフルを構えて何かを叫んでおり、その隣で、パトリシア氏は拳銃を持って立っている。

 マーク氏は地元テレビ局のKMOVに対し、自分も妻も人身被害を専門に扱う弁護士だと述べたうえで、28日夕方の騒ぎでは私道に侵入してきた「怒れる暴徒」らを目の前にして命の危険を感じたと語っている。

 現時点では同夫妻は起訴されていない。逆に警察当局は、多様な人種で構成されるデモ参加者らが不法侵入および同夫妻に対する脅迫を行った事件として、引き続きこの件を調査するとしている。

 一方、セントルイス市の主任検察官を務めるキンバリー・ガードナー氏は29日午後、これとは異なる見解を示して、「検察は現在、警察と協力して今回の騒ぎを調査中」との声明を出した。

「28日の事件は、平和的なデモの参加者らに対して銃と暴力が向けられた事件として深刻に受け止めています。私たちは、平和的に抗議する人々の権利を守らなければなりません。脅迫や武器でもってこの権利を損ねようとするいかなる試みも、決して容認できません」とガードナー氏は語る。

 マクロスキー夫妻の弁護士を務めるアルバート・ワトキンス氏は29日、AP通信に対し「夫妻は長年にわたって公民権運動を支持しており、最近のブラック・ライブズ・マター運動の理念も支持している」と話す。ワトキンス氏によると、デモに参加していた白人のうち2、3名が、夫妻の安全と財産、および隣人の財産を強く脅かしたため、同夫妻は銃を手に取ったのだという。

「夫妻がいま最も懸念しているのは、銃を構えた2人のイメージが、ブラック・ライブズ・マターの理念に反対する者たちの運動の拠り所として誤用されることです。夫妻は、自分たちがブラック・ライブズ・マターの理念を強く支持しているという事実を、ここで明確にしておきたいと考えています」とワトキンス氏は述べる。

 デモ参加者たちは、警察予算の削減を求める請願書を書いた複数の市民の名前と住所を公の場で読み上げたライダ・クルーソン市長に対して、抗議を行っていた。報道各社によると、28日夕方に行われたそのデモでは、500名以上の参加者が「ライダ、辞めろ! 警官も辞めさせろ!」と抗議の声を上げた。

 警察側によれば、マクロスキー夫妻は通りで大きな騒ぎが起こっているのを耳にして家の外を見たところ、大勢の群衆が「立ち入り禁止」や「私道」の標識のある鉄製のゲートを破壊するのを目にしたという。ただし、公開された動画のなかでは、デモ参加者らは普通に歩いてゲートを通過しており、どの時点でゲートが破損したのかは不明だ。

 マクロスキー夫妻の自宅は、過去に地元情報誌「セントルイス・マガジン」で特集されたことがある。そこでは、改修工事が終了した時点での当時の評価額として、115万ドルの値がついていた。

 トランプ大統領は、今回の騒ぎを報じるABCニュースのツイッター記事を、 そのままコメントなしでリツイートした。

 6月26日に行われたフェイスブック上でのライブ・ブリーフィング以降、セントルイスのクルーソン市長の辞任を求める声が高まっている。問題となったのは、このブリーフィングのなかで同市長が警察予算の削減を求める請願書を書いた複数の市民の氏名を読み上げたことだ。その後、この動画はインターネット上から削除された。クルーソン市長自身も同日中に、「誰かを傷つける意図はなかった」と謝罪した。

 市民運動「エクスペクトUS」を主催するダリル・グレイ牧師は、クルーソン市長が特定の市民の住所氏名を公の場で読み上げたことは、「すでにある問題に火を注ぐ行為」だと非難した。一方、28日のデモ騒ぎのなかでは、マクロスキー夫妻が抗議者に銃を向けて警告した後も、同牧師はデモ参加者に対して前進を続けるよう拡声器で呼びかけていた。

「憎悪と恐怖が国中を席捲し、市民活動家たちが安全への懸念を深める昨今の世相のなか、市長が今回とった行動はこの時期に行うにふさわしい賢明なものだったとは思えません。結果として、市長はそのような現状認識を欠き、配慮が足りないことが示されたわけです」とグレイ牧師は話す。

 本来的に、クルーソン市長が読み上げた市民からの書簡は、氏名の部分も含めて公文書の扱いではある。しかし、今回市長のとった行動は、結果的に激しい反発を招いた。

「リーダーとして、あるまじき行為です。我々は断固として、市長宅まで抗議に行くべきです」と、セントルイス選出の州議会議員を務める民主党のラシーン・オルドリッジ氏は、その日のデモのなかで参加者に向かって拡声器で訴えた。

 ジョージ・フロイド氏およびそのほかの黒人市民らが警察権力によって死に追いやられた事件をめぐって、現在アメリカ全土で抗議行動が吹き荒れ、「警察予算の削減」が叫ばれている。発端となった5月25日の事件では、手錠をされたフロイド氏が、ミネアポリス市警の白人警官に8分近くにわたって膝で首を圧迫された後に死亡した。

 市会議員を長年務めてきたクルーソン氏は、犯罪を減らし、貧困地域の環境を改善することを公約に掲げて2017年の市長選に当選。セントルイス初の女性市長となった。1995年には、自宅前で自動車を奪おうとした犯人によって夫のジェフ氏を殺害された過去を持つ。その際、クルーソン氏本人も幼い2児とともにその車に同乗していた。

 近年セントルイスでは殺人事件が急増しており、「全米で最も危険な都市」に毎年ランクインしている。

Translated by t.sato via Conyac

Text by AP