相互信頼と自由、ロックダウンしなかったスウェーデンの人々の暮らし
◆培われた信頼によりパニックが起こりにくい社会
今回のパンデミック下で極端な買い占め行為が報告される国は少なくなかった。イギリスではスーパーの棚が空になり、政府が再三買い占めを止めたほどだ。
スウェーデンでは3月半ば頃に一時、スーパーでトイレットペーパー、ハンドソープ、パスタ類、豆類が品薄になった程度で、それ以外の在庫はほどなく回復した。ドラッグストアやバラエティショップのそれらの在庫はほぼ変わらずであったため、買い物のついでに多めに購入した人が増えただけなのではないかと推測される。
互いの節度ある購買行動が期待できるという信頼感が、過度な買い占めを食い止めた理由のひとつだと考えられるのではないだろうか。
スウェーデン人の配慮ある行動は朝の通勤時間帯にも見られる。暗黙の了解で、到着前の列車の中では、降車客はソーシャルディスタンスを保って待ち、駅に着くと、そのままの間隔で降りてゆく。乗車客も同様で、秩序正しく車内に入り、席を見つけ、散らばっていく。
合理主義、実利主義のスウェーデンでは1960年代からテレワークの導入が進められており、通勤をなるべく控えるようにとの勧告に従える人が多いため、現在電車が混んでいないことも、余裕を持った乗降を可能にしている。
国の方策は罰則がなかったりゆるかったりするため、守られないときもある。とくに飲食店は、外のテラス席では店も客も間隔を空けることを気にしていないように見えるところがほとんどという状態だ。
筆者の推測だが、合理的思考により、屋外などでは飛沫を浴びにくいという理解と、長く暗い冬が明けて短い夏が終わるまでのひととき、明るい日差しを楽しむ貴重なチャンスであるので、余程悪質と思われない限り積極的な取り締まり対象にならないであろうと判断しているのかもしれない。
◆民間の感染防止対策や経済的ダメージは他国同様
民間の小売店などは国の勧告に従うほか、それぞれ感染拡大を抑える努力をしている。入り口にハンドサニタイザーや使い捨て手袋などを置く店は多い。また、店内でほかの客と距離を取るよう注意書きをしたり、入店人数に制限を設けたりしているところもある。
店は通常どおり開いていても、客としては不必要な外出を避ける傾向が強いようで、筆者の夫が行く美容院では客足は通常の4割程度と言っていたという。飲食店はテイクアウトが可能になったところが増えた。
メディアは小売業の劇的な売上低下を伝え、スウェーデンの中央銀行は他国同様GDPの大幅な低下を予測しており、ロックダウンはせずとも、他国と同じように経済的ダメージは避けられない見通しだ。
筆者としては、スウェーデンの対策は合理性に基づき、不必要な縛りがなく、自分の考えと合致していた。イギリスやシンガポールなど他国で暮らす友人たちとの会話が、長いロックダウンのストレスフルな生活についての話題が多くなるなか、人々が足並みを揃え感染防止に努めているお陰でパンデミック渦中を不満なく過ごすことができ、この時期にスウェーデンにいられて良かったと実感している。
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