フランスの接触通知アプリの誤算 隣国が方向転換、孤立も
◆互換性の望めないフランスのアプリ
4月頭の段階では、フランスだけでなく、ドイツやイギリスも「中央集中型」での開発を進めていたが、ドイツは4月末に「分散型」への方向転換を発表。イギリスも6月18日になって、「これまで1ヶ月以上テストしていた中央集中型のアプリの代わりに、アメリカの二大企業が開発した分散型技術を選ぶこと」を決めた(ル・モンド紙1、6/18)。
EU内で最も早い時期の4月16日にノルウェーがリリースした接触者追跡アプリ「Smittestopp」は「中央集中型」であったが、6月16日から機能が凍結され、「アイルランドにあるマイクロソフトのサーバーに蓄積されたデータはすべて消去された」(ル・モンド紙2、6/18)。これは、同国のデータ保護機関Datatilsynetの糾弾を受け、ノルウェー公衆衛生研究所が下した判断である。同国のアプリは、スマホ内の利用者同士の接触を検出するBluetoothと、彼らの動きを追跡するGPSを使うもので、データは毎時中央サーバーに送られ、10日間保存されるものだった(ル・モンド紙2)。このGPSの利用が、個人情報を脅かすと問題視されたのである。
その結果、現在、イギリスを入れると、ヨーロッパのおもな国18ヶ国が、「分散型」アプリを選択したことになる(『iジェネレーション』6/18)。ヨーロッパは、EU内の国境を6月15日から徐々に開いているところで、夏のバカンスシーズンを前に、国境を越えた追跡アプリの互換性は必須と思われる。フランスは、7月上旬を目指し「デジレ」と名付けた代替データ交換プロトコルに取り組んではいるものの、このままでは「中央集中型」であることが足かせとなって周辺諸国アプリとの互換性を望めそうにない(ル・モンド紙3、6/23)。実際、6月16日には、欧州委員会副委員長に「ヨーロッパのほかのアプリがフランスのアプリと協力する難しさを指摘」されている(ル・モンド紙4、6/17)。
◆ダウンロード数の少なさ
また、互換性以前にダウンロード数の少なさも大きな問題だ。仏デジタル相セドリック・オーの発表によれば、StopCovidがリリースされて約3週間となる「6月22日の時点で、(中略)ダウンロードされた数は190万。そのうち180万がインストールされた」が、「インストール後46万が削除」されたという(ル・モンド紙3)。これは、「インストール数は140万で(中略)フランスの人口の約2%」とされた、リリースから1週間後の時点とあまり変わらない数字だ。複数の専門家は「日常的にアプリを利用している人は約35万人」に過ぎないと見積もっている(ル・モンド紙5、6/10)。
ダウンロード数の少なさに悩むのはフランスだけではない。3万5000人近い犠牲者を出したイタリアでは、6月頭にリリースした追跡アプリ「Immuni」について、「2300万人の利用を期待して」いたが、ダウンロード数は350万にとどまっている(20minutes紙、6/23)。
接触者追跡アプリは、より多くのユーザーが利用することで、より有効に機能するものだ。フランスの場合、6月2日から22日の間に報告された新たな感染者数は9400人を超えていたにもかかわらず、この3週間でStopCovidに送られた陽性報告は68件のみ。そうしてこの報告を受けて濃厚接触疑いの通知を受け取ったユーザーはたった14人というお粗末なものだった(ル・モンド紙3)。
ドイツでは、6月16日にリリースした追跡アプリ「Corona Warn-App」が3日で960万回ダウンロードされた(ロイター、6/19)。これはドイツの人口の約12%にあたるが、EU全体でアプリの有効性を高めるにはまだまだ不十分と言える。
しかも、イギリスでは、上に述べた軌道修正が行われたことから、当初5月を予定していたアプリのリリースが「秋または冬に延期された」(ル・モンド紙1)。つまり、移動人数の増える今夏、イギリスにはアプリ自体が不在なわけだ。
感染経路を素早く追えるアプリの利用は、移動制限の解除になくてはならないものと考えられてきたが、追跡アプリで第二波をコントロールするという絵はなかなか描けそうにない。
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