「封鎖なし」は本当に失敗だったのか? スウェーデン現地から見たコロナ対策
◆スウェーデンがロックダウンに至らなかった背景
スウェーデン政府は、集団免疫をつけることが目的でロックダウンをしなかったのではないと明言している。獲得される集団免疫の計算はなされたうえだったとはいえ、多くのメディアのように「スウェーデンの集団免疫政策は……」と語るのは、本意とは異なるのだ。それでは、ロックダウンをしない政策に至ったのはなぜか。
これについては、まず国のシステムについての説明が必要となる。スウェーデンの憲法には、公的機関は政権から独立して存在するものと記されている。国を導く方策に関し、日本のように省庁が調査、提案し、政権が閣議決定をするピラミッド型のシステムではなく、スウェーデンでは、その知識と専門性に基づき公的機関が作成、決定する横並びのシステムになっているのだ。
そのため、スウェーデンの新型コロナ対策は、公衆衛生庁がその合理的判断に基づき決定を担う。それを委ねられるのは疫学専門家アンデシュ・テグネル氏で、政府が開く新型コロナ対策についての会見にほぼ毎回出席し、海外メディアの対応などもするため、国内外でスウェーデンの対策のシンボル的存在となっている。
このフラットなシステムは、普段の生活でもビジネスの場でも、職位や年齢などに関係なく、皆の意見を平等に取り入れるという習慣が根付き、トップダウン式ではなく自由な話し合いで方針が決められることが多いスウェーデンの文化を反映していると言えるものだ。
文化といえば、普段からスウェーデンでは、自分なりの規律を持ち暮らしている人が多い。たとえば、平日に飲酒することに不道徳感を抱くような風潮を感じたりするくらいだ。
新型コロナ禍においても、市民緊急事態庁が6月9日に発表した調査結果によると、80%の人が公衆衛生庁の勧告に従っていると答えたという。
行動に配慮を心がけながら暮らす人が多い社会において確立されるのが「信頼」である。Our World in Dataの、世界各国の人々の他者への信頼度について述べたページで、とくにスウェーデンに関する項目が設けられるほど、当国でのお互いに対する信頼感は強い。
スウェーデンは、信頼が確立され、それぞれの考えが尊重される社会ゆえ、新型コロナの対策もロックダウンのような厳しい罰則を定め取り締まるようなものにならなかったのだ。ではそれはどのような方策なのか。
◆スウェーデンが取る新型コロナ対策
上述したように、厳しい罰則を伴うロックダウンを実施していないが、2月のイタリアでの感染爆発が飛び火する様相を見せたのを機に、スウェーデンでは政党を超え協力体制を築き、感染防止対策案や経済的救済案を矢継ぎ早に発表、対応している。
感染拡大防止対策は、おもに国民への勧告で、人々の良識ある行動に委ねられている。内容は、少しでも症状の見られる人は家に留まること、衛生環境に気を配ること、他者との距離を保つこと、公共の交通機関はできるだけ利用しないなど。また、とくに70代以上および高リスクグループは、買い物を含む外出や家族、友人の訪問を避けることとなっている。
取り締りの対象とされる行為もあり、50人以上のイベントは禁止で、違反者には罰金または最長6ヶ月の禁固刑が科される。飲食店は、立食での提供を禁止し、テーブル席は腕1本分の距離を空けることになっている。違反が見つかった店は、規則に従った設置をした証明ができるまで営業停止となる。また、老人ホームの訪問も禁止されている。
ビジネスに関しては、サービス業への休業要請はなく、レストラン、バー、ジム、小売店、美容院などは通常どおり営業している。仕事をしている人は可能な限り自宅からテレワークすることが推奨される。
学校は、16歳以上の行く高校、大学、専門学校などはリモート学習へ切り替えられた。ただし、16歳以下の行く学校は開いており、先々週から始まった夏休み以前は通常どおりの授業が行われていた。
新型コロナにより打撃を受けた個人に対する経済的救済については、高負担高福祉のスウェーデンではいざとなったときの補償がそもそも手厚いのに加え、傷病手当給付要件の変更などを実行した。
企業への救済措置としては、新型コロナに影響を受ける事業者の、レイオフ費用の半額負担、融資保証、社会保障費負担分の軽減、減税、さらに、とくに中小企業に対して家賃の半額負担などが実施されている。