新型コロナ、なぜ男性の感染のほうが深刻なのか
◆男性に多い酵素と新型コロナ
そもそも、最近の複数の研究は、「SARS-CoV-2が細胞に侵入するには、まず(中略)ACE2に結合し、その後TMPRSS2がSタンパク質のたんぱく質分解性切断を行うことで、ウイルスと細胞膜の融合が可能となる」(アナルズ・オブ・オンコロジー 5/6)ことを報告している。
このうち、ACE2に注目したのがヨーロピアン・ハート・ジャーナルに5月10日発表されたオランダの研究である。ヨーロッパ11ヶ国の患者合計約3700人のACE2を計測したところ、男性のほうがACE2のレベルがずっと高いことが観察されたという。体の部位でいえば、ACE2は「肺を覆う細胞の表面(中略)腎臓、心臓」のほか、男性においては「とくに睾丸に高いレベルで存在」したのだ(ウエスト・フランス紙 5/13)。この事実は、男性のほうが女性より新型コロナで重症化しやすい説明のひとつになると考えられている。
◆男性ホルモンと新型コロナ
他方、TMPRSS2に注目したのは、アナルズ・オブ・オンコロジーに5月6日発表されたイタリアの研究だ。これは、イタリアのヴェネト州のSARS-CoV-2感染患者9280人を対象にしたもので、次の3点を明らかにしている。一つは、「男性のSARS-CoV-2感染患者は女性よりも臨床転帰が悪い」、つまり重症化しやすいこと。次に「がん患者はSARS-CoV-2感染のリスクが高い」こと。最後に「前立腺がん患者のうち、アンドロゲン遮断療法を受けている者は、部分的に感染から守られているように見える」ことである。
アンドロゲン遮断療法とは、アンドロゲン(男性ホルモン)の産生を抑制するホルモン療法で、前立腺がん患者にしばしば用いられる。同研究によれば、「男性のがん患者は、そうでない男性と比べて新型コロナウイルスの感染リスクが1.8倍」(フュチューラ・サンテ)であるにもかかわらず、前立腺がんでアンドロゲン遮断療法を受けている患者に限っては、感染率、重症率ともに低いことが判明したのだ。そうして前述の「ウイルスのヒト細胞感染を助ける」TMPRSS2は、「前立腺だけでなく肺においても、アンドロゲンによってコントロールされている」のである(同上)。
これは「新型コロナウイルスに感染した男性が女性より重症化する理由の説明になり得る」と共同執筆者のアリモンティ教授は考えている。また、同研究は同時に、「アンドロゲン遮断療法が(中略)男性のCovid-19感染予防になる可能性」も示唆している(フュチューラ・サンテ)。
まだまだ謎の多い新型コロナだが、世界中で進む研究が、必ずや近いうちに全容を明らかにしてくれると期待したい。
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