自国に帰れない人々 クルーズ船で自殺者も 新型コロナウイルス

Matilde Campodonico / AP Photo

◆自国に締め出されたモロッコ人
 モロッコ王国は3月14日、国境封鎖とすべての国際便の欠航を決定し、即時これを実行した。しかも、「モロッコに取り残された外国人観光客たちを帰国させるチャーターは許可されたが、国外にいたモロッコ人は帰国を許されなかった」(ル・モンド紙)。ル・モンド紙によれば、このとき、出張や旅行で国外に取り残されたモロッコ人は2万8789人を数える。彼らの予期せぬ不自由な異国暮らしはすでに2ヶ月に及び、当局は数を明らかにしていないが、新型コロナウイルス感染による死者も出ているという。また、予定していたがんの化学治療を受けられなくなった人もいたりと、事態は深刻だ。いくつかの在外モロッコ領事館は緊急対策班を立ち上げ、「食費、医療費、宿泊代を肩代わりした。(中略)デリケートなケースでは心理的フォローアップも行っている」(同)というが、置き去りにされた国民の不満は大きく、「王への直訴の手紙、署名運動、SNS上のキャンペーンやビデオ」(同)などを用いて抗議運動を行ってきた。

 これに対し「サアデディン・オスマニ首相は5月7日、公共テレビのインタビューに「国境を開く決定がなされ次第、彼らは帰国できるだろう」と答え、人々の希望に冷たい水を浴びせかけた」(ル・モンド紙)。同紙は、モロッコが自国民にさえ国境を越えさせないのは、国の医療システムが脆弱であるからだと報じている。同国の「人口3650万人に、公立病院の医者は1万2000人。医療インフラは不十分で、集中治療用の病床は1642床。モロッコは大人数の病人を受け入れることができない」のである。

◆クルーズ船乗組員の自殺
 ダイヤモンド・プリンセス号は、日本停泊中に712人の感染者を出し大きな話題となったが、大型クルーズ船が新型コロナ感染の温床となる例は、その後もあちこちで発生した。オーストラリアに着岸したルビー・プリンセス号、カリフォルニア沖に数日留め置かれたグランド・プリンセス号、カリブ海マルティニークを航行していたコスタ社のクルーズ船、パナマ沖のザーンダム社クルーズ船、カンボジアを最終寄港地としたMS ウェステルダム社のクルーズ船など例には事欠かない。

 営業の一時停止などにより、耳にすることも減ったが、20 Minutes紙(5/12)によれば、現在アメリカ沖だけで、104艘ものクルーズ船が着岸できず待機しているという。合計7万2000人に上る乗組員は、いつ上陸できるのか見通しがたたないままだ。なかには、マイアミ港に停泊する船の乗組員のように、上陸許可を求めてハンガーストライキに入った者たちもいると、同紙は報じている。また、わかっているだけで、すでに3人の乗組員が自殺を図ったという。

 自国に帰れない痛みは、自国から出られない痛みの比ではない。長期にわたる鎖国政策には、人道的観点からのサポートも必要であろう。

Text by 冠ゆき