凍結胚の運命 誰のもの、いつまで保存……遅れる法整備
◆凍結胚の運命
現在、アメリカでは体外受精に関する法律はほぼ存在しないと言ってもいい。保存できる凍結胚の数から期間、もしカップルが別れた場合にはどちらに所有権があるかなど、まったく決まりはない。世界的にみると、イギリスでは、保存期間は10年までと決められており、ドイツでは一度に作られる受精卵は3つまでと決められている。日本では、日本産科婦人科学会が、受精卵の保存は『生殖年齢を超えない』としており、凍結受精卵の保存期間を定めることはしていない。
日本生殖医学会は受精卵の扱いについて次のように説明する。
受精卵はお二人のものですので、たとえ保存期間中であっても、奥様の子宮に移植する際も、破棄する際も、お二人の同意が必要です。御夫婦のどちらか一方が同意しない場合、移植に使用することは出来ません。また現在は、御夫婦のどちらか一方がなくなった場合には、その受精卵を用いて妊娠をはかることは認められていません
もし二人が破局や離婚してしまった場合、その受精卵はどうなるのだろうか。日本のいくつかクリニックでは「夫婦が離婚した場合」は凍結胚は破棄すると明確なところもあるが、誰のものになるのかはっきりせず、裁判になることもある。実際にネット検索で「凍結胚」と入力すると、「捨てられない」「破棄」「更新」などが検索候補に表示され、凍結胚の保存についてよく調べられていることがわかる。
米ドラマ『モダンファミリー』のグロリア役として有名な女優、ソフィア・ベルガラは、元婚約者のニック・ローブと付き合っていたときに保存した凍結胚についていまでも法廷で戦っている。
◆追いつかない法整備
凍結胚に関する法律を決めることはできるのだろうか。凍結胚は受精した卵であり、人になる可能性があるため、放棄された胚をどう処理するか、そして誰がその所有権を持つべきかについて議論することは難しい。
アリゾナ州の女性、ルビー・トレス氏は、進行性乳ガンと診断され、化学療法を始める前に当時の恋人の精子と受精させ、凍結胚を保存した。その後結婚したが、数年後には離婚。離婚後も保管している凍結胚を使い妊娠したいと考えていたが、相手はそれを拒否。裁判で争っていたが、州最高裁判所は凍結胚を使用できないと判決を下した(CNN)。アリゾナ州では、胚を「生命」として定義するという、議論を呼ぶ州法が成立している。そのような定義が一般的になれば、中絶権の制限につながる可能性がある。そのためアメリカでは、プロライフ(中絶反対)の団体などが「凍結胚も命である」としてさまざまな活動をしている。
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