ホームレスの集団感染を防げ、米自治体が奔走 全米に57万人

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◆不衛生、高齢、持病あり 重篤化を懸念
 ホームレスが住む場所は狭く衛生状態も悪いため、チフスや結核など通常ではまれな病気が近年流行している。ホームレスの人々には医療へのアクセスが欠如しており、栄養不良と不衛生も相まって、感染症や慢性疾患の危険が高い。新型コロナは既往症のある人にはより危険とされているため、重篤化につながるのではと懸念されている(ヒル紙、Vox)。

 ホームレス人口の高齢化も懸念の一つだ。2014年の調査では、ホームレス人口の31%が50歳以上だった。新型コロナでは60歳以上はリスクが高まるとされており、健康状態の悪さも手伝い、重篤化が心配されている(Vox)。

 ボストン・グローブ紙は、ホームレスには衛生用品も手を洗う水もないため、感染症にはとくに弱いと指摘する。シェルターに入れたとしても、200人が同じ空間で眠るような環境は容易に感染を広げる可能性もあると指摘している。ホームレス支援団体のCEOは、そもそもこれまでのホームレス保護は、できるだけたくさんの人々をシェルターに収容することが大事だったと説明。しかし新型コロナウイルスに関しては、詰め込みが危険につながるため、まったく逆の対応を迫られていると戸惑いを見せる。さらにシェルターはボランティアの助けで運営されているが、人々が自宅に籠るようになったため、食料や衛生用品の運搬などの仕事に支障が出ることを心配している

◆ホテル確保、病院設営 自治体も動く
 カリフォルニア州では、サンタクララ郡でホームレス一人がすでに亡くなっている。ホームレスを介した感染を抑えるため、州知事はオークランド市の二つのホテルの約400室を確保し、路上生活者を収容する方針を示した。キャンプ用のトレーラーやモジュール式テントも用意し、できる限り安定した居場所を作るとしている。ほかの都市でも、これ以上ホームレスを増やさないよう、住宅からの退去命令の一時停止、電気などのライフラインの差し止め停止などを決定している(Vox)。

 ボストンでは、シェルターの近くに臨時の病院テントを設営し、感染したホームレスの隔離が行えるように準備している。感染を調べる検査も行っており、感染拡大時にはさらに規模を大きくする予定だという(ボストン・グローブ紙)。

 地方レベルで対策が始まる一方、連邦レベルではホームレスのための新型コロナウイルス対策用の予算は設けられていないとVoxは指摘する。今後追加の予算がつけられなければ、コミュニティではシェルターの拡充や業者への支払いもできなくなるとし、政府の早急な対応を求めている。

Text by 山川 真智子