助かる患者を優先 新型肺炎でトリアージ指針、イタリア
◆正しい判断はできるのか? 医師の心の負担
感染者の増えているイギリスでも、トリアージの議論がされている。ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル紙(BMJ)のブログに寄稿した医師のグループによれば、感染者の6~10%が重篤になると見られ、そのほとんどが集中治療室(ICU)で人工呼吸器装着が必要になるということだ。需要が供給を超える場合は「早い者勝ち」が原則だが、リソース配分がよりルールに基づくシステムで行われるトリアージ下では、排除されるグループが出てくるとし、イタリアと同様の判定基準を示している。
もっとも、トリアージにおける問題点も医師たちは指摘する。もしも多くの患者に同等の回復の見込みがあり、治療に要する時間も同程度ということであれば選別は困難だ。優先順位を低くつけた患者が、優先順位の高い患者より回復の可能性が高く、治療期間も短いかもしれない。そう考えれば、医師が簡単に患者を排除することは心情的につらい。さらに、その決定をどう患者や家族に伝えるのかといった問題もあり、場合によっては、医療システムへの不信を呼んでしまうこともあると指摘している。
医療関係者の心構えに不安が残るのはイギリスだけではない。アメリカでは、2009年の新型インフルエンザの流行中に、全米医学アカデミーがパンデミック時の対応ガイダンスを作成しており、これをもとに危機対応プランが各地の病院で用意されているはずだ。しかし新型インフルが思ったほどの惨事にならなかったこともあるのか、それを実施した医療機関はほとんどないという。トリアージのコンセプトはよく理解されているが、実際に行ったことがある医師はあまりいないと科学誌STATに寄稿した医師たちは指摘しており、爆発的感染で重症者が増えれば、現場で混乱をきたす可能性もありそうだ。
◆道徳的責任はどこに? 誰もが納得できる基準を
トリアージの実施は、一部の人々においては悲惨な選択につながることもあるとBMJに寄稿した医師たちは指摘し、イギリスにおいては一貫性、公平性、透明性などを確約するための国民健康保険サービスや医療専門家団体などのガイダンスなしに、個々の医師に責任を押しつけてはならないと述べる。また、今回は間違いなくチャンスを逃してしまったが、本来ならばトリアージの実施計画は国民的議論を経て決めるべきだとも述べている。
モンク氏は、電車が線路上に見える5人の縛られた人々を避けるため別の軌道に切り替えるレバーを引けば、今度はその先にいる別の人をひき殺してしまうという、いわゆる「トロッコ問題」のような倫理的ジレンマを幾度も学んできたという。今回のイタリア人医師たちのトリアージのためのガイドラインは、そのような苦渋の決断を助けるためのものだと思われるとしつつも、自分にはそれに対する道徳的判断はできないと述べる。イタリアの場合は、すでに全員救命が不可能なのだろうが、アメリカの政治家は不可能になる前に、ICUの収容能力を拡大し、他者との距離を取るなどの感染防止対策を国民に徹底すべきだとしている。
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