スイス襲う新型コロナウイルス 買い占め、イベント禁止、アジア人差別

中止となったジュネーブ・モーターショー|Salvatore di Nolfi / Keystone via AP

◆棚から商品が消えた……軽いパニックに陥った2月末
 スイスで初めての感染者が公表される数日前、北イタリアで感染発覚が相次ぎ、開催中のベネチア・カーニバルが中止になったニュースがスイスで流れた。その約1ヶ月前の1月中旬の時点で、いくつかの薬局ではすでに通常のフェイスマスクが売り切れになっているという報道が流れた。

 スイスでは風邪であっても花粉症であっても、みな絶対にと言ってよいほどマスクをしないので、現時点でも、町ではマスク姿の人は皆無といっていい。スイス連邦保険局も、感染していない人がマスクをしても予防の効果はなく、感染者が人にうつさないためにするのだと呼びかけているとはいえ、その後、マスクを買う人が急増したようだ。北イタリアのニュースが飛び込んできた翌日(2月23日)に、近所の薬局2店に開店と同時に行ったところ、1店では売り切れ、もう1店では通常1箱50枚入り(約1500円)を買えるところ、小分けした「最後の10枚」を購入できただけだった。

 マスクと同様、消毒液も全国的に売り切れが相次いでいると報道された。「液体石鹸で、最低20秒間の手洗いを頻繁にするように」と公式な予防策が伝えられるなか、消毒液も使って予防したい人たちが殺到したのだ。ただし、そんななかでも、エタノール消毒液(濃度70%)が買えたという知人がいたし、3月2日に上記の薬局2店に聞いたら、両方でエタノール消毒液(濃度70%、1瓶150ml、約700円)が新たに配送されて、買える状態だった。

 2月の最終週はチューリヒ州などのスーパーで買い占めが起きた。「感染拡大で流通が滞るかもしれない」「もし自宅待機になったら買い物に行けない」という不安が明らかに広まった。筆者はその週、同じスーパーに何度か立ち寄った。パスタ、小麦粉、ジャガイモ加工品、米、オリーブオイル、ソース類、缶詰、冷凍食品、常温保存可能な牛乳など長期的に保存できる食品が徐々に少なくなり、29日の土曜(日曜はほとんどのスーパーが閉店)にはそれらの棚が空っぽという、長年スイスにいて見たことがない光景を目の当たりにした。液体石鹸も売り切れ、生理用品も品薄だった。


品薄になったスーパーの棚|Satomi Iwasawa

 政府は、感染症法に従ってさまざまな対策や措置を行っている。同法では、状況を3段階に分けている。最初の「通常」レベルでは、基本的に州が対策を取る。次の「特別」レベルでは、通常の執行機関がもはや対策を取れず、加えて(以下のいずれか)、感染と拡散のリスクが増加していたり、公衆衛生が危険にさらされたり、経済への深刻な影響が予想されたりする場合は、連邦参事会(政府長)が措置を出すことができる。スイスは、目下、この「特別」レベルにある。最後は「異常」レベルだが、この段階になるのは随分先だろうというのが政府の判断だ。

◆アジア人差別はそれほど多くない印象
 新型コロナウイルスの感染拡大で、世界各地でアジア人一般に対する差別が見られている。スイスでは、在住日本人も含め、アジア人へのあからさまな差別的言があったということは、メディアを通して耳にしている。一方、スイス各地に住む筆者の日本人の友人たちからはそういった話は聞かないし、筆者も外を歩けないとか、レストランで食事ができないということはまったく経験していない。地域(そこに住む人たちの考え方)によって差があるようだ。

Text by 岩澤 里美