クルーズ船の感染対策、何が問題だったのか? 指摘される“甘さ”

@daxa_tw via AP

◆全員守ってこそ効果あり ルールは浸透していたのか?
 日本側は、船内の1000人の乗員にはマスクをし、手を洗い、除菌スプレーの使用を命じたとしている。また、隔離の始まった2月5日以降は、レストラン、バー、エンターテインメント・エリアの営業も中止とし、乗客には他者との接触を避け、部屋にいるよう指導していた。船内では窓のない客室もあったため、マスクをつけて十分な距離を保てば決められた時間はデッキを歩いてもよいとされていた(AP)。

 しかしこのようなルールを全員が遵守していたかどうかは疑わしいと、英イースト・アングリア大学のポール・ハンター教授は述べる。船のようなスペースに限りがある環境では隔離実施は難しく、必ず他人の命令を嫌がる人がいるものだと指摘している(AP)。

 アイルランドのクイーンズ大学のコナー・バムフォード氏は、感染は感染者のせきなどの飛沫から起こるだけではなく、大きく感染力のある飛沫が遠くへ飛ばず物の表面に落ち、それを触ることによっても起こると解説する(英版ヤフー・ニュース)。人との接触を避けていても、散歩中などに壁や手すりに触れることで感染が起きた可能性もある。

 乗客は隔離されたが、乗員は寝食をともにし、食事、手紙、タオルやアメニティの配達をし、清掃のために客室に入っていたという。そのため隔離措置開始後も、乗員が感染してしまったと元WHO西太平洋事務局長の尾身茂氏はAPに話している。

◆各国は不満 ただリスクゼロは無理
 アメリカはすでにチャーター機で希望者のみ自国民を帰国させたが、その後さらに14日間の隔離措置を改めて取ると発表している。日本の隔離では不十分だった可能性があるというのが米CDC(疾病予防管理センター)の見解だ。ほかの国々も同様の措置を取る可能性が高い。元WHO事務局長補代理で、香港大学の福田敬二氏は、陰性で症状がなくても感染の可能性はあるため、各国が再度自国で隔離を行うのは賢明だと述べている(ブルームバーグ)。

 東北大学の押谷仁教授は、隔離を終えた乗客を下船させることは妥当だと述べる。判定基準は必要で、リスクゼロを追求すれば、40日~50日の隔離をすることになるとし、すでに感染した集団があるいま、リスクを完全に取り除くのは不可能だとしている(ブルームバーグ)。

Text by 山川 真智子