新型肺炎:中国政府は正確な情報を出していない? 現地研究と矛盾 初期対応失敗か

Chinatopix via AP

◆武漢市長もつらい……官僚制の壁
 中国の初期の発表と、ランセットの論文の食い違いの原因として、Voxは3つの可能性をあげる。まず考えられるのは、最初の感染報告時に、武漢市が十分な情報を持たず、うまく報告をまとめられなかったことだ。もっとも、最初の41人に対する診断は1月10日までには確定しており、当局は各患者の発症からの経過を把握していたと推定されることから、中国政府は最初の感染源が華南海鮮市場以外だったことを認識していたのではないか、とジョージタウン大のルーシー氏は見ている。

 2つ目は、中国の厳しい官僚制度が情報収集の妨げとなったことだ。ジョージタウン大学のアレクサンドラ・フェラン氏によれば、中国で公式発表をするには、官僚機構の内部プロセスを踏まなければならず、情報の発表が遅れてしまうという。さらにこの複雑なシステムが、下位の役人が上に報告をあげることを妨げてしまう。とくに政治的に敏感な情報は困難だ。

 武漢市の周先旺市長は27日、中国国営テレビで、皆が我々の情報公開に満足していないことは認識しているが自分には省や国の指導者から制限がかけられている、と述べた。情報を受けても上の承認がなければ公開できない、と複雑な事情を吐露している(ロイター)。

◆事態軽視を反省? 発信を始めた中国
 3つ目は、中国政府が故意に2003年のSARSのときのように事態を過小評価したのではないかということだ。今回は以前よりよくやっているという評価もあるが、ヨーク大学のスティーブン・ホフマン教授は、初期に情報を隠していたのだとすれば、今後も中国から出てくる情報の信頼性について懸念せざるを得ない、と述べる。さらに意図的な情報留保は国際法違反だとも指摘している。

 同教授は、1月20日に習主席が初めて新型肺炎の発生について声明を出し、「政府のすべての機関は人命と健康を第一にせよ」と述べた数日後に、感染者数が倍増し、以後急激に増え続けていることは注目に値する、と述べる。現在中国は外に向けて報告をしており、情報を隠しているという証拠はないが、今後も協力的であり続ける保証はないとしている。とくにいまの感染のスピードが続くならば、中国側から出される情報が正確かどうかがより差し迫った問題となる、という見方を示している。

Text by 山川 真智子