「もうたくさん」声を上げる南アフリカの女性たち “国家危機以上”女性への暴力と殺人
◆考えられる要因
一般的に、家父長制に基づく力の不平等がジェンダーに基づく暴力のおもな要因とされている。これは国連がアジア太平洋地域で行った調査結果でも発表されており、男性から女性への暴力は「支配するパワーの根本的な行使」と表現されている。
欧州諸国による植民地支配やアパルトヘイトなど暴力に満ちた歴史を持つ南アフリカにおいては、家父長制な社会規範のほかに、複雑な性別、人種、階級やセクシュアリティーによる差別なども理由に挙げられている。
そのほかに考えられる要因としては、飲酒と性犯罪の関係も考えられる。WHOによると、南アフリカはアフリカ諸国の中でも飲酒率が3番目、世界でも19番目と高い。その上飲酒者の4分の1以上は多量飲酒者とも言われている(BusinessTech)。
親密なパートナーによる暴力に関しては、貧困と関連するストレスも要因として上げられる。無職などの原因で「男性としてのアイデンティティが危機にある」場合に、配偶者への暴力につながることがある。失業率が29%の南アフリカにおいて、貧困がジェンダーに基づく暴力に関連する可能性は大いに考えられる。
これらの要因の多くは個人で解決できる問題ではなく、社会全体としての包括的な解決策が必要と考えられる。
◆政府の対応
立て続くジェンダーに基づく暴力や殺害のメディア報道を受け、南アフリカ国民は政府による明確な対応を強く求めている。
ラマポーザ大統領は9月に行われた大規模なデモの直後、5項目緊急案を発表した。この案には、ジェンダーに基づく暴力の予防、刑事司法制度の強化、法律および政策枠組みの促進、性犯罪被害者向けの十分なケア、サポートおよび癒し、そして女性の経済力が含まれている(News24)。
その後10月にGBVF暫定運営委員会は、11億ランドの国家予算を使って今後6ヶ月間行う行動計画が整ったと発表した。そのなかには、GBVFのなかでもとくに性暴力を伴う犯罪に関するラボ未処理問題の解決、性犯罪法廷における人材強化、レイプキットなどの証拠収集キットの調達と男性および男子の行動変化を促す介入、各州におけるLGBT向けのシェルターの配置、警察や検察官、治安判事、政策担当者など向けに被害者中心なサービスを提供するための研修、そして地域レベルで被害者への即時サポートを可能とするGBVFファンドの設立が盛り込まれている(政府発表)。
短期間では解決することが困難なGBVF問題だが、重要な第一歩として、被害者向けのサポートの向上をただちに行うことが望まれる。「二重被害」を防ぐために、信頼できる司法制度や、被害者の立場を理解したうえでのケアが大事だ。しかし長期的な南アフリカ社会の安全化に向けては、政策はもちろんのこと、地域ぐるみの教育によって女性や子供たちに対する観念が変わることが必要と思われる。
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