大麻:CBD服用は命にかかわるという誤情報

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著:Tyler Marshallアルバータ大学、PhD Student, Graduate Research Assistant)、Jonathan N. Steaカルガリー大学、Clinical Psychologist and Adjunct Assistant Professor)

 こと大麻についていえば、医療関係のニュースでその効果が大々的に宣伝されることがある。最近の記事の見出しでも、「CBDはヘロイン中毒の治療に有効」とか、「最新研究:CBDがヘロイン中毒を緩和」などとうたわれている。

 これらの記事は、American Journal of Psychiatryに掲載された最近の研究からの引用に基づいている。カンナビジオール(CBD)の短期服用により、オピオイド使用障害、とりわけヘロイン中毒から立ち直ろうとしている断薬中の人が経験する誘発性渇望や不安を軽減させたという内容だ。

 こうした研究成果は間違いなく私たちにとって喜ばしい内容であり、一つの可能性としてオピオイド使用障害に使える大麻の役割を示す科学的な文献への大きな貢献である。

 とはいえ、記事の見出しと研究から導かれる知見の正確な解釈との間には、重大なミスマッチが存在する。

◆医療での大麻利用
 CBDとは、植物の大麻に含まれる植物性カンナビノイド化合物の一種である。医薬品業界では、合法的な薬に認定されたことで引き合いが急増している。例えば、CBDは一部の神経障害の治療に効果があるとされているほか、最近では、重度のてんかんの一種である、レノックス・ガストー症候群患者向けに発作の治療薬としてFDAの承認を受けた

 その他、精神病や不安など精神的な症状にも効果があるとされている。動物実験では、CBD投与によりがん性腫瘍が小さくなったことが示された。

 さらに、同類のカンナビノイドであるデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とは異なり、CBDは概して強い毒性がなく、したがって中毒にもなりにくいとされている。安全に使用できるともみられているため、これほどの期待と好意的な関心の対象となっているのも驚くことでない。

 ヘンプやマリファナから抽出される化合物で、高揚感をもたらさないCBDは今や、飲料やスキンクリームなど多くの製品に添加されている。

 とはいえ、化学業界の企業の動きは鈍く、慎重に見定めをしているところだ。CBDの医療での利用については、学習すべきことがまだたくさんある。実際、CBDに関連する誇大宣伝と医薬用途につながる実際のエビデンス(証拠)との間にはかなりの開きがある。

◆すでに断薬中の実験参加者
 American Journal of Psychiatryに掲載された研究の実験では、オピオイド(特にヘロイン)使用障害から回復しつつある42名の協力を募り、参加者を治療群(1日400または800ミリグラムのCBDを服用)とコントロール群(1日1回プラセボを服用)にランダムに分類した。

 この研究で重要な点は、実験参加者がすでにヘロインを積極的に使用しておらず、ヘロインの離脱症状も経験していない断薬中の人たちであることだ。つまり、参加者の症状は回復しつつあり、薬からの離脱や耐性の維持のためにCBDを使用していない。むしろ、参加者に対しヘロイン使用に関連する動画や物を見せるなどして実験によって以前の症状が引き起こされた人のヘロイン渇望や不安を治療するのに使用された。

 研究者たちは次のように述べて研究をまとめている。

「誘発性渇望や不安の軽減につながるCBDの可能性を考えると、オピオイド使用障害を治療する選択肢の一つとして植物性カンナビノイドをさらに調査する有力な基礎材料となる」

 この研究では、CBDをプラセボ群と比較しただけであり、メサドンやブプレノルフィンを使った治療など他のオピオイド拮抗薬による治療と比較したわけではないことを、今一度強調しておきたい。

 また、さらに重要なこととして、参加者は断薬中であり、積極的に離脱しようとする段階の人たちではなかった。

 オピオイド拮抗薬による治療は、薬の渇望や離脱を軽減するのに特に有効である。この治療で得られる医学的な効果には、回復傾向にある人がオピオイドに対して一定の耐性を維持できることがある。つまり、症状がぶり返したときに過剰摂取を防ぐのに効果的である。

 オピオイド拮抗薬の一種であるブプレノルフィンを使用する方法では、ヘロインのような強力なオピオイドでさえ、その働きを効果的に阻止する。他方、CBDにはこうした重要な防御効果がみられない。

 さらに、CBDがオピオイド使用障害の治療に効果的という表現は誤解を与えるだけでなく実害もある。こうした間違った情報が、 オピオイド拮抗薬の服用を開始しない、もしくは中断することを正当化するために使用される可能性があるからだ。

◆表現は重要
 オピオイド研究から得られる知見は確かに重要である。この薬を渇望する人の助けになるとみられる新しい治療法の研究は、大きな進歩だといえる。とりわけ渇望への対処で苦労している人を対象とした研究において、今回の知見が今後も引き続き得られるようであれば、オピオイド使用障害を経験している人に対して、オピオイド拮抗薬に付加する治療としてCBDの使用が強く支持されるだろう。

 重要なのは、オピオイド使用障害の治療にCBDが果たす可能性のある役割を十分理解するためには、もっと多くの調査や助成研究が必要だということである。

 一部の記事の見出しからいえることが何であれ、今回の研究成果は、メサドンやブプレノルフィンのように第一線で使用され、エビデンスに基づくオピオイド拮抗薬の治療をCBDが代替するものではないことを示している。

 ヘロイン中毒にCBDが有効であることを示唆するものでもない。

 これまでにみた概念の違いは些細な問題ではない。場合によっては深刻な結果につながる可能性もある。治療が関係する科学成果を説明する際には、その表現が重要である。 記事の見出しについても同じことがいえる。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation