「助けて」中国の刑務所で作られたクリスマスカードに 横行する強制労働と虐待

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◆強制労働は日常的 過去にも訴え
 ハンフリー氏は妻とともに企業詐欺の調査に関わり、その調査手法が中国では違法とされ、2013年に有罪となった。同氏は2015年6月に釈放されているが、カードにメッセージを書いたのは、それ以前に清浦刑務所で面識があった受刑者ではないかと述べている。刑務所内では多くの外国人受刑者と知り合いになり、釈放された後しばらくは彼らとの連絡手段もあったという。しかし、今年になって検閲が厳しくなったという情報があり、連絡が途絶えた。そのため最後の手段として、彼らはカードにメッセージを託したのではないかとハンフリー氏は見ている(タイムズ紙)。

 中国の外国人受刑者が日常的に手作業での組み立てや箱詰めといった強制労働をさせられていることが、ハンフリー氏の元受刑者仲間のネットワークを通じてわかっている。今回のカードは、大手スーパーのテスコがチャリティーカードとして、1箱1.5ポンド(約210円)で販売していたものだ。昨年清浦刑務所から釈放されたイギリス人元受刑者によれば、少なくとも2年前から受刑者によるテスコ用のクリスマスカードやギフト用タグの箱詰め作業が行われていたということだ(タイムズ紙)。

 インデペンデント紙によれば、中国における受刑者の強制労働は、共産党が最初に権力を掌握した1950年代に始まったとされる。1990年代になるとその事実が研究者や人権活動家の努力により広く知られることとなった。中国では労教と呼ばれる労働システムを通しての再教育が行われ、弁護士へのアクセスや公正な裁判もなく、警察の自由裁量のもと、刑務所のような環境に入れられることがあった。2013年には国際的圧力により、この制度は廃止されているが、同様の強制労働は拘置所や刑務所で形を変えて続いているということだ。

 実は中国の受刑者からのSOSは以前にも発見されている。2012年にはアメリカで中国製のハロウィン飾りから、瀋陽市馬三家労働教養所の受刑者からの手紙が見つかり、1日15時間休日もなく働かされ、嫌がれば拷問、殴打、言葉の暴力を浴びせられると書かれていた。2017年には、英スーパーのセインズベリーのクリスマスカードから、「幸運と幸福をお祈りする」という広州の刑務所からのメッセージが見つかっている(タイムズ紙)。

◆日本企業も加担? 見えない刑務所内の搾取の実態
 この事件を受けて、テスコは受刑者労働を批判し、二度とサプライチェーンにそれを利用した商品を載せないと発表した。問題のカードが作られた工場の生産を即時停止し調査に乗り出したと述べ、調査中のカードの販売は中止するとしている。

 実はテスコは問題のカードのサプライヤーの監査を先月終えたばかりで、その際には、受刑者利用を禁止するというルールへの違反を示唆するものは何も見つからなかったと述べている。もし違反が見つかれば、即刻どのサプライヤーでも取引を停止するとテスコは述べているが、下請けや孫請けが普通の、中国の安価な商品の製造を監視することは容易ではないとハンフリー氏は指摘している。

 中国の刑務所の工場で、組み立て作業をさせられていたというドイツ人の元受刑者は、ポルシェのプラモデルには日本のメーカーの名前が、スーツケースのロックにはサムソナイトのブランド名がついていたと独シュピーゲル誌に語っている。

 米国土安全保障省の強制労働プログラムの上級政策アドバイザー、ケネス・ケネディ氏は、受刑者の強制労働は「中国における巨大な産業」だと指摘する。刑務所のシステムが中国にとってのおいしいビジネスとなっており、イギリスや西側の企業は知らないうちに強制労働に加担している可能性があることを認識する必要があるとハンフリー氏は注意を呼びかけている。

Text by 山川 真智子