「中国人に雇用、文化を奪われる」イタリアで高まる中国系移民への反感
◆バリスタは中国人、変わるミラノのバール
中国系移民への反感は繊維業界だけではない。サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)によれば、イタリアには30万人以上の中国人移民が合法に住んでおり、違法に滞在している者はそれ以上だという。90%は浙江省の出身者ということだ。イタリアでは、コーヒーマシンを使ってコーヒーを提供するバールがどこにでもあるが、ミラノでは中国人経営の店が増えているという。2019年には、4891件が登録されているが、そのうち562件は中国人経営だ。
イタリアの中国人バリスタを研究するGrazia Deng氏によれば、オーナーのほとんどは在イタリア10~20年以上ということで、家計収入を増やそうとしている。バール経営は、世界経済危機で繊維関係などの仕事を無くした人が始めることが多いという。また、中国人ビジネスは家族経営が多い。移民2世が働ける年齢となり、ファミリービジネスを手助けできるようになったことも、理由の一つだとDeng氏は述べている(SCMP)。
パリを拠点とするデジタル・ニュース誌『ワールド・クランチ』は、以前は安価な中国製品をイタリアに輸入する移民ビジネスが流行ったが、中国の人件費が高騰し、経済危機でイタリアのミドルクラスの購買力が落ちたことで、ビジネスを畳み煙草屋やコーヒーショップに鞍替えする人が増えたとしている。
◆現実を知らない? 伝統は移民なしでは守れず
イタリア人のなかには、繊維の場合と同様に、中国人がバールを経営することでイタリア文化を乗っ取ろうとしていると見る人々もいるという。しかしDeng氏はこれに反論する。
そもそもバールは、近隣住民相手に酒や煙草や食品まで売り、コーヒー1杯1ユーロ(約120円)、ビール1本2ユーロ(約240円)程度しかもらえない、安価な商売だ。営業時間も長いため、融通の利く家族労働でなければとても続けられない。イタリア人経営の店は、子供たちが教育を受ければミドルクラスの職に就き、店を継ごうとしないので、中国人は「文化的侵略者」どころかむしろ伝統の守護者だとDeng氏は主張している。
イタリアには、「中国人は絶対に死なない」という都市伝説があるという。中国人移民が死んでも当局には知らされず、単に死んだ人の移民許可証が新しく来た中国人に渡されるからということだ(SCMP)。
しかしワールド・クランチによれば、中国の経済発展により、中国からの移民のペースは鈍化している。イタリアでは、中国系移民の2世の起業がさまざまな分野で盛んだという。彼らがいなくなれば、グローバル化する世界で文化も経済も守れないことをイタリア人は気づくのかもしれない。
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