イタリアの町「家を無料であげます」 日本の過疎地域との共通点

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◆子作りでボーナスも 移住者で活性化期待
 実はイタリア各地では1ユーロで家を売るというプロジェクトがある。売れない老朽化した空き家は持っているだけで税金がかかる。そこで象徴的な意味で売値を1ユーロとし、不動産を自治体に事実上寄付して整理しようという取り組みだ。購入者は物件を改築することを条件に、税控除などの恩恵が受けられるようになっている(プロジェクトのウェブサイト『1€ Houses』)。カンマラータの場合は移住者の増加を期待しているが、考え方は同じだ。

 現在十数件の石造りの空き家が対象となっているが、少なくともあと100件は同様の物件があるとされる。無料とはいえ、物件を手に入れるにはいくつかの条件がある。3年以内に物件の改築をすること、5000ユーロ(約60万円)の保証金を支払うこと(工事が完了すれば返還される)、明白な改築プランを町に提出することの3つだ。これらの条件を満たした応募者のなかで、子供のいる若いカップルは優先される。さらにカップルが定住して子供ができれば、1000ユーロ(約12万円)のボーナスが出るということだ。物件は数階建てになっているが、個人住宅やホテル、店舗、レストランへの改築も可能だという。

 カンマラータの町は海と山に囲まれ、緑も多い。海を臨む建物の窓からは夕日が見られ、エトナ山の壮大な眺めを楽しむことができる。ジャンブローネ氏は、地元の人々は訪問者には親切で、郷土料理も最高だとアピール。新しい住人が変化やイノベーション、新たなアイデアをもたらし、地元経済の活性化につながることを期待している(CNN)。

◆日本でも家がもらえる 将来的には焼け石に水?
「空き家をあげます」というプロジェクトは日本にもある。米CBSが取り上げた東京都西部の奥多摩町では、ここ数十年で人口が半減し、大通りはシャッター街となり高齢者が目立つ。子供の数も少なくなっている。地元は危機感を持っており、転入者が空き屋に15年間住めば、その後は無料で譲渡するとしている。定住者を増やすための取り組みだ。

 CBSは、このような絶滅に瀕した自治体が日本には1000ほどあるとし、日本の人口が今世紀終わりには半減すると解説している。奥多摩ではこれまで500人が転入しており、一定の成果は出ているが、15年後にその人たちが空き家を手に入れるころには町はもっと小さくなっているのではないかとCBSは述べている。

 カンマラータの場合も同じだろう。CNNによれば、カンマラータはイタリアで100歳以上の人が最も多く住む町だという。いまある空き家が埋まっても、現在住んでいる人々が亡くなれば空き家は増え続けていく。家をあげるだけでは、町が復興するような人口の増加は期待できそうにない。

 テンプル大学ジャパンキャンパスのジョン・モック氏は、アメリカなどでは移民が多すぎるという文句は出るが、出生率の低下にはほとんど議論がないと指摘。日本と同じことが、少子化が進む欧米諸国でもいずれ起こるだろうとCBSに述べる。世界の先進国は、人口減、高齢化によるコミュニティの衰退をこれから経験することになるだろう。

Text by 山川 真智子