ネットの「キャンセル・カルチャー」に警鐘鳴らすオバマ氏

Ashlee Rezin Garcia / Chicago Sun-Times via AP

◆あの人もヘビーユーザー SNSで他人をキャンセル
 ワシントン・ポスト紙(WP)は、著名人を批判する大規模な動きは、力を持つ人物に責任を課すには必須の戦略だと証明され、#MeTooなどの世界的ムーブメントにつながったと述べる。しかし、古い不適切なツイートなどの失敗を取り上げ、その人の人生やキャリアにも大きな影響をもたらしてしまうこともあると指摘。誰かをいらない、受け入れられないと「キャンセル」する集団的態度には批判もあると述べている。

 CNNのクリス・チリザ氏によれば、ボイコットは、長らく変化を促す効率的な方法だと考えられてきたが、一部の人や集団をSNS上で厳しく検閲するやり方が左派の間でここ数年人気を得ているという。オバマ時代以後のアメリカの文化を表す特質の一つになっているとのことだ。

 大統領退任後のオバマ氏が2017年に、英ハリー王子によるBBCのインタビューのなかで、分断の種をまくためにSNSを利用するリーダーたちを批判していた。オバマ氏がその場でそのリーダーたちの名を明かすことはなかったが、トランプ大統領を意味したのは明白だとニューヨーク・ポスト紙は述べている。現職の大統領が率先して他者批判にSNSを活用するアメリカの現状は深刻だ。

◆SNSはプラカードと同じ? 抗議活動はいつの時代も繰り返される
 今回のオバマ氏のコメントは、左派から右派まで幅広い層からの賛同を集めたとメディアは報じている。オバマ氏は、以前に「ネットの危険性の一つは、人々がまったく異なる現実を持つようになり、それぞれの偏見を強化する情報の殻に閉じこもること」と述べており、そういった傾向が多くの人々の共通の懸念であったことを示したといえる。

 しかし、若い世代からの反論もある。ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したジャーナリストのアーネスト・オーウェン氏は、そもそも抗議活動などのアクティビズムは現代において繰り返されていると述べる。親の世代が差別に対し抗議するため使ったプラカードや嘆願書に加え、若者がSNSを使用するのがなぜダメなのかと問う。

 同氏は、力や特権を持つ人々ほど、オンライン・アクティビズムにいらいらし、それが人々の対話の機会を奪う不要な悪だと思っていると指摘。オバマ・サミットに参加した若者たちの多くは、超保守的で饒舌な白人男子と、聴衆は自分の芸術性を理解し過去の失敗も見逃してくれると思い込んでいるセレブだったとし、かれらが世代の代表者とは見ていない。

 オバマ氏の世代は、若者が自分たちの価値観を知らせるためにネットを使うことを理解していない、また、若者が意見の違う者を追いかけいじめているのではないことも理解していないとオーウェン氏は述べる。むしろ害を与える可能性のある、またはすでにそうしている影響力のある者たちに対抗し、世の中にあるのは偏見に満ちた、時代遅れの考えだけではないというメッセージを弱者に送るため、声を上げていると主張している。若い世代は、親の世代が石を投げ続けてきた巨人を倒すためにできることをやっているのであり、SNSはそのためのツールで、これからも使い続けると記事を締めくくっている。

Text by 山川 真智子