インドネシア首都移転、なぜ? ジャカルタの深刻な状況 未来にも不安

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◆人と富の不均衡を是正 環境、災害も考慮
 首都移転の理由としてまず上げられているのは、ジャカルタの一極集中だ。首都圏も合わせれば3000万人が暮らすジャカルタは行政、金融、ビジネスの中心で、国内最大の空港や港湾施設も置かれ、負担に耐えられなくなっているとジョコ大統領は話す。また、ジャカルタがあるジャワ島には国の人口(2億7000万人)の54%、GDPの58%が集中している(ロイター)。経済格差や人口密度の偏りを正すためにも、ジャワ島以外への首都移転が必要だということだ。

 もう一つの理由は、ジャカルタの環境、災害対策だ。ジャカルタは地震、洪水が起きやすく、地下水の違法な汲み上げで地盤沈下が起きている。水質汚染も深刻なうえ、経済損失が年間65億ドル(約6900億円)といわれる交通渋滞も解消されていない(AP)。

◆移転にデメリットも ジャカルタ市民は不満
 首都移転はいいことばかりというわけでもない。東カリマンタン州は、以前は熱帯雨林に覆われた地域だったが、違法な森林伐採でもともとあった森の多くが失われている(AP)。残った森にはオランウータン、マレーグマ、テングザルといった動物たちが住んでいるため、移転によるさらなる環境破壊を、環境保護主義者たちは心配しているという。また、鉱業、パーム油産業による公害の悪化も進んでおり、グリーンピースの活動家は、新首都がジャカルタと同じ道を辿ることを懸念している(ロイター)。

 ジャカルタ市民も、首都移転を歓迎していない。8月14日から21日に行われた全国世論調査によれば、移転を支持する人は35.6%だったが、ジャカルタに限れば、95.7%が反対と回答している。調査を行ったケダイコピ調査研究所のクント・アディ・ウィボウォ氏は、首都でなくなれば政府の目が向かなくなり、ジャカルタの問題解決への十分な取り組みが期待できなくなるというのが市民の懸念だと説明している。さらに、移転となれば2023年からジャカルタの100万人の公務員が新首都に引っ越すと予想される。ロジスティクスの面で混乱が起き、市民生活に支障が出ると見られることも、反対の理由だという(オンラインメディア『ココナッツ・ジャカルタ』)。

 ジョコ大統領は首都移転の費用は325億ドル(約3兆4400億円)とし、19%は国が、残りは官民連携と民間投資で賄うとしている。こちらのほうも予定通りにいくかどうか、心配なところだ。

Text by 山川 真智子