身元特定、報復恐れる香港デモ参加者 マスクで顔隠す 中国監視社会

AP Photo / Kin Cheung

 中国本土で裁判を行うために容疑者の引き渡しを可能にする条例の改正案を巡り、香港でデモが行われた。抗議デモに参加した香港在住の若者たちは、自分たちの身元が特定されないように気を配っている。ビッグデータを収集し、精巧な顔認識技術を導入している当局からの報復を危惧しているのだ。

 名字を明かすことを拒んだアグネスは大学2年生である。民主化を求めて夜通し行われた抗議デモに参加するため、香港の中心街である金鐘(アドミラルティ)地区へ向かった。地下鉄を降りるとすぐにマスクを着用した、と話す。

「参加者はみんなマスクを着用しています。情報を使って何をされるかわからないですから」とアグネスが話すと、友人らは同意してうなずいた。誰も名前を明かすことはなかったが、香港や中国の中央政府が個人の情報について学校に問い合わせた場合、どのような対応がなされるか不安を感じていると口を揃える。

 個人情報をさらに擁護するため、そのグループは片道切符を現金で購入し、列車に乗ってきたという。電子マネーを利用することで移動経路や位置データを集約管理する機構に情報が送信されることを避けた。

 中国の特別行政区である香港には何千台もの監視カメラが設置されているが、そのデータはおおむね機密が守られている。中国本土では、政治上信頼できないとみなした人を追跡して捕らえるための技術が公然と利用されている。なかでもとくに、イスラム教を信仰するウイグル人や、チベット人、その他少数民族がその対象として挙げられる。

 市内の至る所に設置されている映像監視システムに加え、数十局ものテレビ局や報道機関などが抗議デモの映像を放送し、記事に掲載してきた。

 アグネスのような若者世代の香港住民らに広がる動きは、普通選挙権を求めるデモが行われた2014年以降、人々が政府を批判する際の要領をつかんできたことを示している。「オキュパイ・セントラル(中環を占拠せよ)」や「雨傘革命」として知られてきたこのデモは、目的を果たすことなく失敗に終わってしまったが、中心街の大部分が閉鎖される大規模なものだった。デモ提唱者の多くは、公序を乱す行為、または人々を扇動する行為を行ったという漠然とした罪により実刑判決を受けた。

 香港警察当局は抗議デモで11名を逮捕したと発表し、病院へ搬送された負傷者を探し出して捕らえる権利があると主張した。

 今年2月には、中国西部に住む250万を超える人々のリアルタイムデータが中国当局によって保管され、正確な位置情報を示すGPS座標が常時更新されていたことが明るみに出た。氏名や生年月日、勤務地以外にも、モスクやホテル、レストランなど、ごく最近訪れた場所を記した情報もあった。

 このデータベースには、顔認識技術を駆使して追跡した人々の動きが記録されているようだ。24時間で記録された座標軸情報は670万超に及ぶ。これにより、中国がどれほど顔認識を活用してきたかが明らかになった。そして、機密にされるべき記録がテクノロジー企業によっていとも簡単に、詮索好きな国家の手に渡ることも起こり得ると、再認識させられた。

 中国当局はさらに、新しい監視装置の配備を開始している。人の体形を読み取り、カメラに顔が映っていない場合でも、歩き方によって個人を特定するものだ。

 この「歩行認識システム」はすでに北京と上海の道路に設置され、警察によって利用されている。中国が国を挙げて取り組む、人工知能とデータ駆動型認識システムの開発を後押しするものであり、このような技術はどこまで進められるのかという懸念が高まる。

 高齢のデモ参加者は、抗議デモ中の映像に映ってしまうことについて、あまり気にしなかったという。生活もキャリアもすでに確立されていると話す。

 香港理工大学工学部のアンディ・ラウ教授は、「そのことについて私はあまり深く考えていない」と話す。立法会の向かい側にある歩道橋で人波にもまれながら、警察による暴力行為の停止と、香港現政府の退陣を求めるビラを配布していた。

 しかし、ラウ氏によると若者世代はデモに参加する際、しっかりと身元や個人情報を擁護するよう忠告されているという。

「国境を超えて中国に入ったときに降りかかる問題ではありません。香港にいる場合でも、警察や教育指導者はあなたを探し出し、夜、家のドアをノックしに来ることもあるのです」と、ラウ教授は話す。

By CHRISTOPHER BODEEN Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP