ノートルダム火災、「黄色いベスト」参加者の悲しみはやがて怒りに

AP Photo / Rafael Yaghobzadeh

 4月15日に発生したノートルダム大聖堂火災は、フランスの「黄色いベスト運動」に参加する人々にも大きな悲しみを与えた。しかし、その悲しみはすぐに激しい怒りへと変わった。

「黄色いベスト運動」は、燃料税の引き上げや富裕層優遇による不平等に反対する市民による抗議活動だ。2018年末頃から広がりはじめ、一部デモ隊が暴徒化するなど、フランス全土を揺るがす運動に発展している。運動に参加する人々の中には、ゴシック建築の傑作としても知られる大聖堂が焼け落ちるテレビ映像を見ながら、涙を流した人もいたという。

 日々の生活に追われているにもかかわらず、この象徴的な建築物の復興費用を寄付する者もいた。

                                                                                                                 

 しかし、マクロン大統領の対応が彼らの感情を逆なでしてしまった。昨年11月からの抗議活動を巻き起こした元凶は社会危機にあり、マクロン氏はその対応について考えを語るはずであった。しかし、先にノートルダム大聖堂復興への協力を呼び掛けたことで、市民らは自分たちの声が軽んじられていると捉えてしまったのだ。

 さらにその数時間後、複数名の富豪が大聖堂修復のため多額の寄付を行うと表明したことで、長い間フランス政府と闘ってきたが、いまだ要求が満たされない抗議参加者は激怒した。

「黄色いベスト運動」のリーダーで、立ち上げメンバーでもあるイングリッド・ルヴァヴァスール氏はAP通信に対し、「我々は5ヶ月にわたって社会や経済の不公正と闘ってきて、今では数百万規模に増え続けています。心が痛いです」と語る。

 クリストフ・カスタネール内務大臣は、全国各地に6万人の警察官が動員されると述べ、暴徒化する抗議者も出ることが見込まれるため、ノートルダム近辺ではデモを禁止した。

「確かに、大聖堂の火災が嘆かわしい悲劇であることは間違いありません。でも、死者はでませんでした」とルヴァヴァスール氏は言う。「国全体で喪に服すという話も出ていますが、ちょっとおかしいですね」。

 ノートルダム大聖堂の火災はフランス国民に衝撃を与えたが、ルヴァヴァスール氏はマクロン大統領がその後に生まれた「崩れることのない国民の一体感」のイメージを政治利用しているのではないか、と感じている。

「火事が起きてから24時間もたたないうちに大統領は演説をしました。私たちの問題を取り上げてくれるまでには3週間も待たされましたが」と彼女は不満を口にした。

 低賃金労働者や年金受給者の苦しみ、そして富裕層を優遇するマクロン政権を非難する「黄色いベスト運動」は22週間途切れることなく週末のたびに抗議運動を展開している。「黄色いベスト」とは、彼らが身に着けている運転者用ジャケットに由来している。フランスでは、自動車を運転する際に蛍光色のジャケットを車内に保管することが義務付けられている。

 政府の対応の悪さに不満を感じたルヴァヴァスール氏は、ここ数週間デモには参加していなかった。しかし、ノートルダムの悲劇以来、これまで以上に市民の訴えが見過ごされていると感じ、再び街に戻ることを検討しているという。

 しかし、このような思いを抱いているのは彼女だけではない。

 ピエール・デリエン氏はモンペリエ南部の都市を拠点とする抗議グループのフェイスブックに「大聖堂には4日間で数十億が集まり、貧しい人々には何一つ与えられない。この状況は、黄色いベストの人々を怒らせることになる」とコメントしている。

 フランスで最も裕福な実業家ベルナール・アルノー氏は、大聖堂再建のため自身が所有する高級ブランドLVMHグループを通じて2億ユーロ(約249億円)を寄付すると約束した。また、大富豪のフランソワ・ピノー氏と息子のフランソワ・アンリ・ピノー氏は、競売会社クリスティの親会社であり、グッチなどの高級ファッションブランドの大株主で、アンリ氏が社長を務めるアルテミス社から1億ユーロ(約124億円)調達することを発表した。

「ノートルダム大聖堂復興のために何千万も出せるなら、今後は社会の緊急事態に対応する資金がない、などと言うべきではない」とCGT労働組合リーダーのフィリップ・マルティネス氏は言った。

 大聖堂復興の寄付金は10億ドルを超えると見込まれ、多くのフランス国民は「別の使い方をするべき」と考えている。金持ちの税金対策なのでは、と大富豪の寄付を批判する声もあがっている。

 一方、ピノー一家はノートルダムへの寄付に税金控除は要求しないと明言しており、アルノー氏もまた同族企業の持ち株会社もすでに控除限度額に達しているため減税対象にはならないと話している。

 実際、税金問題は黄色いベスト運動でも、最も差し迫った問題の一つだった。マクロン氏は経済刺激政策の一環として富裕税を撤廃したが、労働者階級の生活水準は低下していることから、富裕層優遇であると非難の的となった。

 黄色いベスト抗議者が週末に大規模な抗議行動の実施に向けて調整中であることをうけ、ここ数日SNS上で「アンチ富裕層」のメッセージが盛んに投稿されている。

 あるFacebookユーザーは「ピノー氏、アルノー氏といったパトロンへのささやかなメッセージとして、病院でもストライキが起きています。他に手段がないのです。ですから、もし何らかの意思を示してもらえれば……」と記している。

 その一方で、寄付を行った富裕層に対し、フランスの低所得者層に寛大になってほしい、と説く人々も数多くいた。

 フランスの作家で哲学者のオリヴィエ・プリオル氏は「ヴィクトル・ユーゴ氏は、ノートルダム大聖堂を救おうとするすべての寛大な寄付者に感謝する。そして、レ・ミゼラブル(に象徴される貧困層)にもまた救いの手を差し伸べるよう提案する」と述べている。これはノートルダム大聖堂と貧しい人々の暮らしを描いた有名小説「レ・ミゼラブル」を引き合いに出した皮肉であり、多くの人がこれをSNS以上で引用した。

 黄色いベスト運動の支持者であるトリスタン氏は、今回の論争は傍観していたいという。彼は週末デモに参加したためパリへの旅行が禁止されており、警察に身元を突き止められないよう、フルネームの公表は控えてほしいという。

 トリスタン氏はノートルダム大聖堂に約1万円寄付した。建設業で働き、生活のため頻繁に夜勤もこなす29歳にとっては、大金だ。「私はカトリック教徒で、教会にも普通に行きますから。個人的に心を痛めています。火事の夜は、涙がでました」。

「もちろん大富豪に対して、なぜもっと重要度の高いものにお金を出さなかったのか、と言うこともできるでしょう。その一方で、マクロン大統領がノートルダムを5年以内に再建すると言ったことに、とても衝撃を受けましたね。彼が人生で一度も『こて』を握ったことがないのは、間違いないですね」とトリスタン氏は語る。

By SAMUEL PETREQUIN Associated Press
Translated by isshi via Conyac

Text by AP

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