中毒死、依存症……米国を蝕んだオピオイド鎮痛剤 寄付された「汚い金」が問題にも

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 医療用麻薬とも呼ばれるオピオイド鎮痛薬の過剰摂取が、アメリカで社会問題となっている。オピオイドは痛みを緩和するが、陶酔感、多幸感をもたらす。よって習慣性、依存性が生み出され、過剰摂取すれば死に至る恐れもある。ところが米製薬会社パーデュー・ファーマは、1995年ごろから自社のオピオイド鎮痛薬「オキシコンチン」を安全と謳い、積極的に販売。多くの医師が処方したため、依存症が蔓延する結果となった。

 現在全米各地で訴訟が起こされているが、同社のオーナーであり、篤志家としても知られるサックラー一族への批判が高まっている。これを受け、英米の有名美術館や博物館が、今後同一族からの寄付を受け取らないことを表明している。

◆死者多数 依存症で自治体も疲弊
 アメリカ疾病予防管理センターによれば、非合法、または処方されたオピオイドがもとで亡くなった人は、2017年には4万8000人となっている。これは、同年の交通事故による死亡者数や、流行のピークだった1995年のエイズによる死亡者数を上回るものだ(AP)。ウェブ誌『Vox』は、オピオイド危機によりこれまでに20万人が死亡したと報じている。

 依存症となった住民に対応する自治体も財政的に疲弊しており、現在多くの地方政府が、パーデュー・ファーマを訴えている。人口6万5000人のオハイオ州マリオン郡の場合、薬物の過剰摂取による救急コールには、1件に対し警官2名、救急医療サービス隊員3名、車3台が派遣されるという。深刻な事態でなくても出動回数は1日3、4件もあり、時間や設備も含めればコストは多大だ。郡の留置所の受刑者の70%は依存症か精神衛生上の問題を抱えているうえ、最近は収容能力を20%上回る数となり、州予算の70%を食いつぶす状態だという。依存症治療が必要な住民も増え続けている。低所得者向け医療保険が治療に使われるため、2010年から2016年の間にコストは7倍に跳ね上がった。多くの自治体が、オピオイド危機がもたらした人的、経済的被害を法廷で明らかにしたいと望んでいるという(AP)。

Text by 山川 真智子