犬のDNA検査が人気、アメリカ 賛否めぐり議論も

AP Photo / Mary Altaffer

 私たちは、健康や遺伝の手がかりを知るためにDNAを探る。ところが今は、人間の親友である犬も顕微鏡検査を受ける時代だ。

 近年、犬のDNA検査が増えているという。その背景にあるのは、自宅でできる人のDNA検査と同じように頬の内側の粘膜を採取してペットのDNAを調べる企業の存在だ。この10年で、世界で100万匹を超える犬が検査を受けてきた。

 検査事例は増える一方だが、その基準、解釈、限界についての議論が起きている。しかし多くの飼い主にとって、DNA検査はペットをよりよく知る一つの手段でもある。

                                                                                                                 

「パズルのピースを組み合わせるようなもの」と、最近、「プロップ」と「シュマッツイー」という名の2匹の雑種犬の検査をしたリサ・トポル氏は話す。2月9日に行われたウェストミンスター・ケンネルクラブ・ドッグショーのアジリティ競技で高得点を挙げたのがプロップで、シュマッツイーも競演した。誰もが切望する優勝を決める審査は11日から行われる。

 今冬にウェストミンスター・ドッグショーで初のDNA検査パートナーになったエンバーク社による検査の結果で、トポル氏の元気な2匹の犬はオーストラリアン・キャトル・ドッグではないかという推測の正しいことが分かった。しかしシュマッツイーの遺伝子構成をみると、ラブラドール・レトリバーとドーベルマン・ピンシャーの遺伝子もかなり含まれているという驚きの結果となった。

 何だって?トポル氏はふと考えた。続いて、シュマッツイーが物を取ってくる「フェッチング」や水を好むのは、おそらくラブラドール・レトリバーの遺伝子があるからなのだと思った。ドーベルマンのようには歩かないのだろうか?

「2匹は私にとってユニークで、特別な存在の犬です。検査によって、犬のことをよく知ることができました」と、ニューヨークの広告会社で役員を務めるトポル氏は話す。

 特定の状況や目的で犬のDNA検査が行わるようになったのは20年も前の話だが、本格実施は2005年に科学者たちが犬の全遺伝情報を明らかにしてからだった。

 ペットケア用品やキャンディーなどの食品を製造する大手メーカー、マース・インコーポレイテッド社の一部門「ウィズダム・ヘルス」は2007年に犬種を特定する検査を実施し、その数年後には健康診断のオプションを設けた。これまでに世界中で110万匹を検査したという。他にも多くの検査が存在る。

 マスマーケットを対象にした検査は研究の発展につながり、将来性のあるペットに関する詳細な情報を提供することで、動物保護施設が飼い主を探すのに一役買っている。DNA検査をすれば純血種犬の血統証明ができるほか、飼い主が特定の病気を除去しようとする際にも役立つ。

 この技術は、飼い主が糞の始末をしなかった犬の特定や、噛みついた疑いのある犬の探索にも活用されてきた。また、ミシガン州でポメラニアンを殺した疑いをかけられたベルジアン・マリノアの犬が、DNA鑑定によって無実を証明され、殺処分を免れたケースもある。DNA検査により治療が向上すると考える獣医もいる。

「来院する犬について、できるだけ多くのことを知りたい」と話すのは、ノースカロライナ州オーシャンアイルビーチに住む獣医で、テレビにも出演しているアーニー・ワルド博士だ。全ての犬を対象とする検査を推奨している。

 しかし昨年、権威ある科学誌ネイチャーで犬のDNA検査ブームに対する懸念が表明された。

「ペットの遺伝子検査は制限されなくてはならない」と、ボストン在住の獣医と2人の科学者は言う。その説明は、1匹のパグが安楽死させられたという心の痛む逸話から始まる。飼い主がDNA検査の結果をみて、飼っているペットが稀少な進行性神経障害を患っていると考えた末の措置だったという。しかし、その病気はまだ治療可能な状態であったかもしれない。

「もっと多くの情報を入手するまで、このような検査を制限すべきだ」と共著者で獣医のリサ・モーゼス博士は述べている。

 検査によっては、特定の犬種において遺伝子の突然変異の可能性が明らかになる。しかし、そうした突然変異の可能性を持つ犬が、最終的にどれくらいの頻度で病気になるかは明らかではない。

 つまり検査自体は、飼い主がペットのことをどの程度心配しなくてはならないかについて、必ずしも的確にアドバイスしているわけではないのだ。ブリーダーに対し、特定の犬同士の交配を避けるべきと伝えられるわけでもない。病気になる可能性についての情報が曖昧であるため、DNA検査の結果が出たことで優れた遺伝子を持たない犬種を残さないようになると恐れる関係者もいる。

「過剰解釈のリスクは大きい」ものの、DNA検査を始めとするツールは利用価値が高いと、アメリカンケネルクラブ犬の健康財団でCEOを務める獣医のダイアン・ブラウン博士は述べている。この財団は、遺伝子や分子の研究に約2,000万ドル(約22億円)を投資してきたほか、犬のDNA検査の標準化に向けた国際的な取り組みに対する支援を行っている。

 非営利団体「犬のための国際パートナーシップ」が中心となって実施しているこの取り組みでは、検査機関の手続きに関する検索可能なデータや、犬種特有の健康診断情報を提供している。

「この取り組みにより、研究者は未知の問題に対処できるようになる。また、特定の治療法に対して犬の遺伝子が問題のある反応を示すか否かといった、有用な情報を即座に入手できる」と、検査実施会社はコメントしている。エンバークやウィズダムといった企業では、飼い主に検査結果を説明する役割を担う獣医を雇っている。

「当社は、より良い形で飼い主が犬の面倒をみられるようにサポートします」と、エンバーク・ベテリナリー社CEOのライアン・ボイコ氏は話す。同社はこの3年半で約10万匹を対象に犬種と健康に関する検査を実施してきた。支払い金額は明らかにされていないものの、エンバークはウェストミンスター・ドッグショーと提携しており、とりわけブリーダーの間では名の知れた企業となっている。

 長年ベルジャン・シープドッグのブリーダーをしていて、ウェストミンスター・ショーに飼い犬を出場させたこともあるローラ・ミラー氏は、以前は消費者目線で行う犬のDNA検査に疑問を感じていた。雑種犬を検査するのは珍しいと思っていた。

「検査してもすぐにはメリットが得られないかもしれませんが……犬種の将来に関わることですから」と、同氏は語る。今では、ベルジャン・シープドッグの愛犬家が遺伝子データを構築し、家畜を守るこの犬種に関する研究が、いっそう発展するよう願っている。

 ジョンスホプキンス大学院で認知科学を専攻しているレニー・パスキネリ氏にとって良かったことは、DNA検査を通じて飼い犬「マレー」への見方が変わったことだ。

 この犬を飼い始めたとき、ボーダーコリーとボストン・テリアの混合種だと認識していた。しかし先月行われたエンバーク社の検査によると、実はわずかなボーダーコリーと6つの犬種の雑種で、そのほとんどが アメリカン・ピット・ブル・テリアであったことが判明した。ボストン・テリアはまったく入っていなかった。

 愛犬マレーへの愛情は、以前と変わらないという。

「ある人について、それまで知らなかったことが分かったような感じです。相手に対する考えが良い方向、悪い方向に変わるわけではありませんが、少し違った目で見るようになるでしょう」と説明している。

Translated by Conyac

Text by AP

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