アマゾン・ベゾス氏の無料幼稚園が象徴すること 貧富の拡大と富豪の寛大化

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 ジェフ・ベゾス氏による無料プリスクール(未就学児向け教育施設)からアンドリュー・カーネギー氏の公立図書館に至るまで――アメリカの大富豪たちにとって「教育」は、常にお気に入りのテーマだ。

 富裕層がより金持ちに、そして明らかにより寛大になるにつれて、行政における優先順位や政策変更は、いわゆる慈善事業への投資という名のレガシーによって形成されてきた。しかし、大富豪たちが世間の注目を集める一方で、批評家たちは資本主義と貧困の二極化に関心を向けている。慈善活動家たちが財産を築くことを可能にした支配体制の下、彼らが支援しようとしている社会問題について最終的な成果を残すことができるのか、疑問を呈している。

 ベゾス氏は2018年9月に立ち上げた20億ドル(約2200億円)規模の慈善基金「ベゾス・デイ・ワン・ファンド」の半分を、全米の低所得地域に無料のプリスクールを開設する基金として活用すると発表した。早期教育を支援するための慈善基金としては最高額である。

 ベゾス氏がこれを新しい事業のための資金とみなしているか、確固たる寄付だと考えているかは定かではない。しかし、テクノロジー業界の大物であり、新聞社のオーナーの顔も持ち、さらに航空宇宙企業の創立者でもあるベゾス氏の方針は明瞭である。小売りを変えてきた自身のアマゾン・ドット・コム社と同様、現状を打破したいのだ。園児たちは「顧客」であると公言している。

 代理人はコメントを避けたが、ベゾス氏がこれまで慈善活動への参画に極めて堅固であったことを特徴づけている。

 2018年、アマゾンの創業者兼CEOであるベゾス氏は、史上初めて保有資産が1000億ドル(約11兆円)を超えた人物となり、米経済紙フォーブスによる世界長者番付で首位になった。フォーブス誌によると、保有資産額10億ドル(約1100億円)以上のビリオネアは、現在世界中に2200人以上、その資産総額は9.1兆ドル(約1000兆円)となり、前年に比べ18%増加したという。

 さらに、米インディアナ大学によって報告されたギビングUSA財団の年度調査によると、2017年の寄付総額も記録的なものであったという。総額4100億ドル(約45兆円)の寄付の内、全米における教育関連への支援額は、教会や宗教団体への寄付に次いで2番目であった。

 非営利の評価機関チャリティ・ナビゲーターのラリー・リーベルマン氏によると、自身の成功を教育の力と機会によるものだと称賛することの多い富裕層の慈善活動家たちにとって、学校や子供たち、学問には普遍的な魅力があるという。そして、宗教理念に基づいて社会奉仕活動を行う組織に多くみられるように、十分な資金力のある教育機関は資金集めに依存しており、故にその手法もまた巧みである。

 しかし、教育を支援する慈善活動が存在する限り、個人の投資先や資本主義や富の分配、貧困が担うべき役目についての批判も同様に存在してきた。

「このような慈善活動家たちは根本的に、資本主義によって生じた不平等は、その経済体系に影響を与えることなく、能力主義によって解決できるという考えを押し進めている」と、慈善活動を専門に研究するデイビッド・キャラハン氏は言う。

「これはアメリカン・ドリームという神話なのだ。働き者で向上心のある人は誰でも成功する、というのがアメリカン・ドリームである。ほとんど全員がある程度これを受け入れ、多くの慈善活動はこれを反映したものである」とキャラハン氏は述べている。

 アメリカの優れた慈善家たちは長い間、公共施設やサービスを改善させるために決まった額を寄付するよりも、劇的な変化が見込まれるさらにスケールの大きな活動に関心を寄せてきた。こうした取り組みが展開されてきた一方で、高額寄付者による慈善活動は、その多くが免税対象である自己資金力を活用し、政府投資や政策変更を推し進めることに成功してきた。

 そして、慈善活動費用が記された白地小切手は、有能な人に託され、控えめに要件が指示された。それに対し富裕層は、助成金が具体的な成果を示すという期待を寄せつつ、「投機」もしくは「投資」型慈善活動を体現してきた。

 ベゾス氏は、マリア・モンテッソーリの教育哲学を採用したプリスクールを開設、運営するための非営利組織を立ち上げているところだと語った。自己教育力と社会的感情の発達を重んじるモンテッソーリ教育の学校に、ベゾス氏自身も通っていた。

 実業家のアンドリュー・カーネギー氏は1900年代、地方行政が運営資金を提供することを確約した場所にいくつも図書館を設立した。小売り帝国ウォルマートの創業者サム・ウォルトンの名を冠した財団は、政治的に分極化しつつある、公設民営方式のチャーター・スクールの最大の支援者として資金提供してきた。マイクロソフト社の共同創業者であるビル・ゲイツ氏は、突出した資金支援者として絶大な影響力を行使し、10年以上にわたりアメリカの公立学校のシステム改革を広範に行ってきた。子供たちが学習する内容や、教師たちの指導方法について、政策や擁護、研究に深く影響を及ぼすものである。

 ベゾス氏を含め、この4人は全員、世界長者番付首位の座に就いた経験があり、計り知れない額の支援金を教育のための慈善活動に投資してきた。鉄鋼王カーネギー氏が図書館やコンサートホール、大学など自身の名を冠した教育施設を実際に建てた一方で、ゲイツ氏はコンピューター革命の主導者として、データを駆使した学校システムの変更を先導したことで知られている。

 巨額の資金を投じ人生を捧げた慈善活動の父として知られるカーネギー氏は、鉄鋼王を引退する時までに莫大な財産を手放すと前々から公言していた。ゲイツ氏が始めた寄付啓蒙活動「ギビング・プレッジ」は、資産家に自身の財産の大半を慈善活動に寄付することを促すものであるが、カーネギー氏の信念を受け継いだものであるとされている。ベゾス氏はこれに同調することを表明していない。

 一方で、カーネギー氏が財を成す上で必要不可欠な存在であった低賃金の従業員たちは、同氏の手法について激しく批判した。その理由について、「より多くの肉や酒を手に入れることができるような、個人のちっぽけな利得のために従業員個々の賃金を上げることよりも、教育施設を設立することで社会全体にお返しをすることの方が、事業で得た富の用途としてはずっと有益だと考えていたためである」と、カーネギー史研究家のデイヴィッド・ナソー氏はこのように述べている。

 また、ベゾス氏が始めたホームレス支援のための慈善活動は、カーネギー時代の批判と類似する面があると、ナソー氏は述べている。

 11月、ベゾス氏は立ち上げた慈善基金の最初の投資先を発表した。9750万ドル(約107億円)を全米24ヶ所にあるホームレス家族の支援団体に寄付するというものだ。しかし今年初め、ホームレス問題の危機感が強まっている地域により多くのサービスを提供することを目的に、シアトル市議会が法人対象の新税を導入することを提案した。市内最大の民間企業であるアマゾン社はこれに激しく抵抗し、すぐに撤回するよう市幹部に圧力をかけた。

「慈善活動は、地球上で最小の民主的な機構である。富めるものがすべきことを決定するのだ」とナソー氏は言う。

By SALLY HO, Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP