「男らしさ」って有害では? 疑問を持ち始めた世界 「男らしくない」ヒーローに脚光

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◆「男らしさ」を否定し始めた親たちとエンタメ界
 こうした流れから、「toxic masculinity」を意識した子育てを実践する人も増えている。この動きに注目したインディアン・エクスプレス紙は、家父長制による弊害に着目し、その背景・対策を、実例や専門家の知見をあげながらハウツー的に述べている。

 例えば、マニキュアが好きな5歳のサムが、そのことでいじめられ、帰宅すると母親に抱き着いて泣きじゃくったという話。サムのように本来の自分を傷つけられた結果、やがて感情を抑えこむようになり、うつ病を発症することもあるという。強さや冷静さは男性の生来の特性ではなくジェンダーロールに過ぎないので、悲しいときには泣かせ、性別に関係なく好きなものを選ばせるべきだと指摘した。

 こうした対策を反映させた物語がいま、エンターテイメント界で脚光を浴びている。エンタメ情報サイト『スクリーンラント』は、マーベルライジングの新作『シークレット・ウォーリアーズ』の制作者に取材し、その意図を伝えた。同作は、多様性と「toxic masculinity」をテーマとし、弱くて傷つきやすいけれど優しい2人の男の子が登場する。腕力を誇示せず、リーダーシップをとらない真新しい「ヒーロー」像である。

◆SNSで増えた告白「男はつらいよ」
 大人の社会でも、「toxic masculinity」は話題となっている。「男(の子)はそういうもの」「男の下ネタは当然」といった考えはジェンダーバイアスにすぎないと指摘するのが、NY大学で発達心理学を教えるニオベ・ウェイ氏だ。フォーブス誌は同氏に取材し、「toxic masculinity」の仕組みや、意識改革の重要性を伝えた。

 ウェイ氏によると、「男らしさ」とは、女性の特性とされてきた思いやりや豊かな感情を損なうことでもあるという。性別に関係なく誰もがもつ感情を抑制すると、対人関係に問題が生じ、男女の分断にもつながる。また、女性嫌悪が動機となって起きた銃乱射事件(米サンタバーバラ、2014年)は、その最悪の例だと指摘した。

 SNS上での議論も活発だ。BBCは、ツイッター上での「toxic masculinity」の議論をとりあげ、苦悩する男性たちを紹介した。気持ちを抑え込んだために人間関係が絶たれた経験や、男性の自殺率増加の背景には弱音を吐きにくいことがあるという指摘など、多彩な声が寄せられた。

 さらに、仲間内で女性を品定めする文化を不快に感じるという意見など、男女関係に葛藤する声も上がった。男ならではのプレッシャーから「パパになりたくない」と明かした人は、「男らしさ」を批判する本を読んでいるところだという。

 大人の社会でも、こうした建設的な「男もつらいよ」論はこの先、盛んになっていくことだろう。

Text by 伊藤 春奈