ニューヨークで大麻は合法なのか? 市長の異例の指示、その裏にある複雑な事情

Steven Senne / AP Photo

 アメリカで進行するマリファナ合法化の波が日本でも少しずつ報じられるようになって、「ニューヨークではマリファナは合法なのか」と聞かれることが増えてきた。その答えはノーでもあり、イエスでもある。

◆州によって異なる政策
 アメリカ連邦政府が違法物質として指定するマリファナを、州レベルではそれとは別途に扱いを決める、というアメリカならではの状況がそもそもわかりづらいのだが、そのうえ、各州によってマリファナ政策はかなり違うことがさらに状況をわかりづらくしている。

                                                                                                                 

 コロラド、ワシントン、カリフォルニアをはじめとして医療用使用だけでなく、娯楽用にも開放している「全面合法州」もあれば、医療のみ合法にしている州、合法化はしていないが特定量のマリファナ使用や所持を軽犯罪扱いする「非犯罪化州」もある。ニューヨーク州は、医療用マリファナは合法化し、「公共の場」における所持を軽犯罪とするハイブリッドの政策を採用している。

◆「非犯罪化」も厳しい取り締まり
 最近、マリファナ関連で大きく報じられた「事件」のひとつに、ニューヨークのビル・デブラシオ市長が5月、ニューヨーク市警(NYPD)にマリファナ吸引を理由にした逮捕をやめるように命じた、というものがあった。「公共の場所」におけるマリファナの吸引が発見された際に、「逮捕」ではなく「軽犯罪」扱いとして違反チケットを切るという処置に切り替えなさい、と指示を出したということである。あれ?と、違和感を感じたのは、デブラシオ市長は2014年にも、NYPDに対して「逮捕のかわりに違反チケットの発行を」という指示を出していたからである。

 過去を遡ると、ニューヨーク市があるニューヨーク州は、1977年に25グラム以下のマリファナ所持については「非犯罪化」する法案を通して「非犯罪化」を制度化していたという歴史がある。ところがこれには「public view(公共の目に触れる場合)」という例外条項がついていた。

 1977年の法案通過をうけて一時的に減った少量のマリファナの逮捕だが、立ちションからグラフィティまであらゆる「犯罪」を厳しく取り締まったルドルフ・ジュリアーニ氏(現トランプ大統領法律顧問)が市長に就任したあとの1997年から、うなぎのぼりに増えた。NYPDが、この例外条項を根拠に職務質問の対象者に身体検査をし、でてきたマリファナを「公共の目に触れた」として逮捕するようになったからだ。

 その結果、1997年から2010年までの間に、ニューヨーク市内で起きた少量のマリファナ吸引・所持関係の逮捕者は50万人を超えた。その厳しい取り締まりを実行した、当時ジュリアーニ市長の右腕だったNY市警の長官ウィリアム・ブラットンは、「ゼロ・トレランス(ゼロ容認)」をスローガンに、「ストップ&フリスク」(停止と捜検、つまり不審人物を呼び止めて職務質問や持ち物検査をすること)というアグレッシブな手法を取り入れた。

◆「ストップ&フリスク」は違憲
 ところが、この手法のターゲットになったのが、黒人やヒスパニック系市民に偏ったために、逮捕と起訴件数のギャップが拡大し、市民が警察を訴えるケースが大幅に増加した。90年代に開始されたときから人権団体やマイノリティ系の組織からの評判がいたって悪かった「ストップ&フリスク」だが、ブラットンが辞任し、ジュリアーニが2度の任期を終えてブルームバーグ市長が就任したあとも行われ続けた。

 多くのマイノリティの人権侵害につながった「ストップ&フリスク」だが、2012年頃から多数の抗議デモの対象になった。最終的に「ストップ&フリスク」は、犯罪者と間違われて誤認逮捕された黒人の原告団が、ニューヨーク市を相手取って2008年に起こした集団訴訟(フロイド対ニューヨーク市)の結審において、ニューヨークの連邦地方裁の裁判長によって「違憲」の判決を受けた。

◆使用合法に追い風
 ポピュリストを自認するデブラシオ市長が、2014年に「少量のマリファナ逮捕停止令」を出した背景にはこういう文脈があった。NYPDはデブラシオ市長の指示を無視して、2014年以降も、少量のマリファナ所持を理由とする逮捕を続けていたわけである。そして4年後の今再び、ほぼ同じ内容の指示を出した背景には、マンハッタン地区のサイラス・バンス検事長が5月に発表した研究結果があった。

 コロラド、オレゴンといった完全合法州の統計や事例、課題などを検討したこの研究によると、マリファナ関連の逮捕件数は、黒人やヒスパニックといったマイノリティに集中する傾向があった。たとえばコロラド州では、合法化以降、白人のマリファナ逮捕件数は半数近くに減ったけれど、マイノリティの逮捕率の低下はより限定的だった。そこに人種的バイアスが認められたわけである。

 バンス検事長はこの研究結果をもとに、8月1日以降、マリファナの使用および所持に起因する逮捕を起訴しないことを発表したのである。

「ニューヨークではマリファナ使用は合法か」という質問への答えは相変わらず簡単ではない。しかし、ノーとイエスの割合が、日に日にイエスに近くなっている。

Text by 佐久間 裕美子

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