カジノ:シンガポールのギャンブル依存症患者はなぜ減ったのか?

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 カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案が19日、衆院を通過し、参院に送付された。政府・与党はさらに国会の会期を延長し、法案を今国会中に成立させる構えで、いよいよIR導入の目途が立ってきたかたちだ。
 
 日本に先駆けシンガポールでは8年前の2010年に2つの大型IRをオープンさせ、今日まで順調な運営を続けている。中国や近隣諸国の経済成長なども相まり、2003年からIR開業をはさんだ2013年までの10年間での観光客数は2.5倍、観光収⼊は3.4倍に増加し、観光収入がGDPの7%を占めるまでになり、IRの導入は大いなる成功であったように映る。

 日本でのIR導入に反対する人の多くがギャンブル依存症(病的賭博)への懸念を指摘する。先例となるシンガポールでは、苦しむ人が増えたのだろうか。

◆シンガポールの2つのIR
 まず、シンガポールで運営されているIRはどのようなものか。2010年から現在に至るまで国内で運営されているIRは2つ。米朝首脳会談の開催地として注目を浴びたセントーサ島にある「リゾート・ワールド・セントーサ」と、高層ビルの上に船を乗せたような斬新なデザインが今やシンガポールのランドマークとなった「マリーナベイ・サンズ」である。

                                                                                                                 

 リゾート・ワールド・セントーサはセントーサ島内の広大な範囲を占有し、敷地内に6つのホテル、ユニバーサルスタジオ、アジア一の水量を誇る水族館、大型レジャープール、劇場などの家族向けアトラクション、コンベンションセンター、そしてカジノを持つ。

 マリーナベイ・サンズは、空中に浮かぶようなプールを擁するホテル棟とカジノが日本では特に知られているが、その他にも、国際見本市・会議の開かれる大規模なコンベンションセンター、日本のチームラボの老若男女が楽しめる作品群を常設展示する美術館、ショッピングモールを有する大型複合施設だ。

 シンガポールのIRには、カジノの占有面積は上限1.5万㎡、IRに占める割合を3%程度にするという制限があり、敷地内はファミリーで楽しめる施設の比率が圧倒的に大きい。

◆カジノ導入後ギャンブル依存症は増加したか
 IRの導入後、観光客と税収の増加で潤ったのと引き換えにシンガポールはギャンブル依存症患者を多く抱えることになったのだろうか。

 シンガポールでは3年ごとに、国民と永住権保持者のうちでギャンブル依存症が疑われる者の割合を調査している。その結果によると、カジノのオープンより5年さかのぼる2005年に行われた調査時には4.1%だったギャンブル依存症の割合が、2008年には2.9%にまで落ち、さらに2011年には2.6%に下がった。

 その後、2014年の調査時には0.7%までに落ち、最新の2017年の調査結果では0.9%と上昇したものの、その率はわずかなものに留まる。この数字を見る限りでは、カジノのオープンがシンガポールにギャンブル依存症を増やしたことは考えられない。

 目新しいギャンブルの選択肢が増えたにもかかわらずギャンブル依存症の割合が下がったのはなぜか。

◆ギャンブル依存症の割合が下がった理由
 シンガポール国民と永住権保持者には、国内の2つのカジノへの入場料が課せられる。カジノの入場時には厳しい身分証チェックがあり、国民と永住権保持者は1回につき24時間有効の入場料100シンガポールドル(約8,000円)、または年間入場料2,000シンガポールドル(約16万円)を支払わなければならないと決められている。そして、カジノへの出入り禁止措置、または入場回数制限が、本人および家族の申請により可能となっている。

 現地英字紙のストレーツタイムズによると、2017年9月末に本人または家族がカジノへの入場禁止を申請した人数は25,000人超。また、約47,000人が債務未決済の破産者または生活保護受給者であることを理由にカジノへの出入りを禁止されている。

 2016年度に国民と永住権保持者が支払ったカジノ入場料の総額は1.3億シンガポールドルで、2013年度の1.7億シンガポールドルから21%減少しており、国民のカジノ離れが見られた。

 依存症対策に取り組むNPO「BGSS」への同紙のインタビューではこの理由について、ギャンブラーには入場料のかかるカジノより、借り入れ可能な非合法のオンラインカジノのほうが好まれるため、そしてカジノは本人や家族による入場禁止措置が取られるためではないかと推測しており、これらの施策は功を奏しているようだ。

 さらに、シンガポール政府は、2005年4月にIR導入を発表した4ヶ月後の同年8月、社会・家族開発省の下に国家賭博依存症評議会(NCPG)を置き、国民のギャンブル依存対策に本格的に乗り出している。NCPGが担うのは、国民に対するギャンブル依存症対策、カジノへの出入り禁止規則の個人への適用、ギャンブル依存のリサーチなどである。

 また、2008年にそれまであった保健省管轄下の依存症専門クリニックを国家依存症管理サービス機構(NAMS)という組織に改編し、ギャンブルを含む、アルコール、ドラッグなどの依存症全般の治療対策を強化した。その他にもシンガポールには、民間のリハビリ施設、NPO法人など、依存症対策・治療の受け皿が揃っている。

 シンガポールの合法ギャンブルは2010年に開業したカジノだけではなく、それ以前から競馬やロト、スポーツ賭博なども存在していた。カジノ導入に伴い、包括的なギャンブル依存症対策がセットで提示され、ギャンブル依存症の率が下がったという調査結果が間違いないものであれば、シンガポール国民にとっては、カジノの開業により、旅行客数の増加、税収の増加、そして依存症対策が厚くなり、大きな恩恵を得られたといえる。日本のIRの導入も国民への恩恵が大きなものとなることを望みたい。

Text by Tamami Persson

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