絶望の回転ドア 増加する薬物で服役する女性、分断される家族

10歳の息子と面会をする、服役中のクリストル・スウェット氏(AP Photo/David Goldman)

 郡刑務所の壁を隔て、1人の母親とその息子が、学校のこと、女の子のこと、誕生日のプレゼントのこと、そして2人が共に暮らせる未来について話し合っている。親子が直接顔を合わせることは許されていない。そのため受刑者の母親と、5年生の息子は、ビデオを通して話をする。

 10歳のロビー君は、面会室で受話器を握りしめ、独房に座っている母親が映るスクリーンを見つめながら、「ママ」とクリストル・スウェット氏に呼びかける。

 ロビー君が最後にスウェット氏とハグしたのは、2015年のクリスマス。スウェット氏が再び刑務所に収容される直前のことだ。ロビー君はスウェット氏に、彼女が釈放される日には、両手を離して自転車に乗れるようになったところを見せたいと伝えた。

                                                                                                                 

 スウェット氏はもう何年もの間、刑務所から出てはまた入れられるということを繰り返している。強盗などの罪で逮捕された回数は二十何件にものぼるが、そのほとんどは、毎日300ドル相当の鎮痛剤を摂取していたほどの薬物依存症に絡んだ犯罪だった。薬をやめようと試みたこともあったが、何をやってもやめられなかった。スウェット氏は、今年の夏におそらく仮出所できるので、その時には薬物を断つ決意をしていると言う。

「私はもうすぐ33歳になる」とスウェット氏は言う。「このような生活を続けたくない。家族が頼れる存在になりたい」

 アパラチアの片田舎にひっそりと建つキャンベル郡刑務所を覗いてみると、オピロイドやメタンフェタミンの乱用が広まったことにより荒廃したアメリカの、あまりにも悲惨な現状が垣間見える。キャンベル郡を始めとする国内全土で、薬物依存症の広まりによって刑務所に入れられる女性の割合が急増し、家族を分断している。その一方で、依存症を断ち切るための資金も治療プログラムも恒久的な解決策も乏しいコミュニティは、窮地に追いやられている。

 アメリカの更生人口の中でも、女性受刑者の数は最も速いスピードで増えている。司法統計局(Bureau of Justice Statistics)によると、女性受刑者数は1980年の13,258人から2016年には102,300人に増加した。薬物の所持または使用により逮捕された割合は、1980~2009年の間に男性が2倍に増加したのに比べ、女性は3倍にも膨れ上がった。オピオイドの乱用は、問題が深刻化した原因となっている。

 10年以上前には、キャンベル郡刑務所に10人以上の女性が収容されているのは稀なことだった。現在、女性受刑者は常に60人程いる。その大半は薬物関連の罪で逮捕されており、多くの受刑者が薬物依存症にも陥っている。女性らはカウンセリングを受けることなく釈放され、友人や、時には家族もが薬物を使用しているコミュニティに戻る。すると彼女らもすぐに薬物を使用することになる。

 そしてまた同じことが起こるのだ。再び逮捕され、記録用の顔写真を撮られ、ピンク色の囚人服に身を包み、独房に連れて行かれた後、後悔と絶望が押し寄せる。

 サライ・キーリーン氏は、保護観察期間中に覚せい剤所持の違反を犯し、再び服役中だ。キーリーン氏はこれまで薬物を常習的に使用しており、それを売ってオピオイドも購入していた。3年間近く刑務所に収容され、彼女は自由を望むと同時に恐れてもいる。「過ちを犯すのではないかと、不安になる」と彼女は言う。

 ブランシュ・ボール氏は、30年の半生のうち15年間に渡り覚せい剤の使用、製造、販売を行い、複数回逮捕されてきた。ボール氏は、「これまでの人生で、何かもっとできることがあったというのはわかっている」と言う。しかし「何年もこのようなことを繰り返してきたから、他の生き方がわからない」。

 ボール氏の子供たちは、上の2人が家族に育てられた。下の2人は養子に出した。「この件について、とても心を痛めている」と言い、「常に目を背けるようにしている」。

 疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)によると、キャンベル郡は2015年に、ひとりあたりのオピオイド処方量が、アメリカで3番目に多い郡となった。キャンベル郡の処方量は全国平均の5倍以上にのぼる。

 E.L.モートン郡長は、製薬業界と医師らを非難しており、オピオイド製造者を相手に2件の訴訟を起こし、キャンベル郡とその住民4万人を代表して争っている。オピオイドだけでなく、覚せい剤も問題だ。

 35歳の受刑者、キーリーン氏は、「薬物はいたるところに蔓延している」と言う。

 キャンベル郡の苦悩は何十年にも及ぶ。郡のたばこ会社や、一時期は盛況だった石炭産業は、ずいぶん前に廃業し、雇用と安定した収入をなくした。一部の工場は存続したものの、住人の5人に1人が貧困だ。地方検察官によると、最近では、キャンベル郡を含む5つの郡の一帯で発生した犯罪の約90%が、薬物に関連するものだ。

 テネシー州アルコール・薬物等依存症サービス協会(Tennessee Association of Alcohol, Drug & Other Addiction Services)の会長を務めるマリー=リンデン・サルター氏によると、テネシー州の農村部には、精神科医やソーシャルワーカー、カウンセラー、看護師や、居住型の依存症治療施設が不足している上に、キャンベル郡には治療プログラムもない。サルター氏は続けて、「ベッドに空きがあるからといって、治療のために700マイルも移動するというのは、現実的ではない」と述べている。

 サルター氏によると、女性の場合は幼少期や成人してからトラウマになるような経験をしていたり、虐待を受けていたりするため、薬物依存症の治療がより高額かつ複雑になることが多く、さらに子供を失うことを恐れることで、助けを求めるまでに時間がかかる傾向がある。

「女性には家族の世話をするという役割がある」とサルター氏は言う。「子供の世話をしていなければ、女性は責められ、それを恥じる。しかし依存症治療を怠っても責められ、恥じることになる。それは恐ろしい選択だ」

 そこで依存症を治療する方法を紹介しよう。薬物裁判所は、最長2年間の監督を行っており、更生率は70%に達する。さらに昨年には、違反者を短期または長期に渡り、居住型の治療施設に移すという女性専用の新プログラムが始まった。どちらの場合にも、依存症患者は治療のため、他の郡や、州外に連れて行かれる。

 クリストル・スウェット氏は、出所した際には宗教的奉仕活動の一環として行われている依存症治療プログラムへの参加を希望している。3歳の頃からロビー君の世話をしているスウェット氏の両親は、彼女を支援すると約束した。

 この日のロビー君との面会が終了した時、親子は互いに投げキスをした。

 スウェット氏は、「息子が今も私を愛してくれていることに、とても感謝している」と言う。「あの子は私に失望している……そのようなことは言わないが、失望していることが私にはわかる」

By SHARON COHEN, AP National Writer
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP

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