オゾン層破壊のフロン、新たに作られている可能性 東アジアで放出 米機関

NASA / Wikimedia Commons

 フロンガスは、1980年代になって地球のオゾン層を破壊することが分かり、段階的廃止が決まった。以後大気中のフロンガスは徐々に減少を続けてきたが、米政府機関の観測で、近年CFC-11と呼ばれるフロン類の排出量が増えていることが判明した。科学者たちは、どこかの国で製造されていると見ており、オゾン層回復のための世界の協力体制に水を差すものだとしている。

◆禁止されているフロンガス 近年減少速度が低下
 CFC-11の異変を報告したのは、27年にわたり大気中の微量気体を観測しているアメリカ海洋大気庁のStephen Montzka氏とその同僚たちだ。ネイチャー誌に発表された彼らの研究によれば、CFC-11の大気中のレベルは全体として低下しているが、減少速度が予測より遅いという。Montzka氏は、近年CFC-11の排出量が増えているようだと述べている(米公共ラジオ網NPR)。

 クロロフルオロカーボン(CFC)は、冷蔵庫やエアコンの冷媒、またスプレー缶の噴射剤としてかつては広く利用されていた物質だ。建物の断熱材や家具などにも使われていた。しかし、皮膚がんのリスクを増加させる有害な紫外線を除去するオゾン層を破壊することが、1985年になって判明。その2年後にモントリオール議定書で、段階的廃止が決定された。ガーディアン紙によれば、CFC-11はCFCのなかでは2番目に有害とされる物質であり、2007年以来、原則的にその生産は報告されていない。

◆他の仮説は除外 新たに作られていると考えるのが妥当
 ガーディアン紙によれば、Montzka氏たちは、CFC-11の減少速度低下の理由を突き止めようと、いくつかの仮説を立てている。まず、大気がCFC-11を散布、分解する方法に変化があったことで計測に影響が出たのではないかと考えたが、最新のデータからは関連は認められなかった。

 次に、古い資材に使われたCFCが大量に放出された、または何か別の化学物質の製造過程で副産物として発生したという可能性も考えたが、計測結果が示唆するほどの規模の物質が、これらの理由で排出されたと考えることは難しいとしている。最終的にたどり着いたのは、誰かが新たに製造しているという結論だった。排出されているのは東アジアだということは突き止められたが、正確な場所までは分かっていないという(インデペンデント紙)。

◆違反は簡単? グローバルな協調の難しさを露呈
 研究者たちは、科学的目的のため、また世界規模で環境に関する条約や法律を確実に守っていくためにも、監視システムの重要性を強調してきたという。リーズ大学のマーティン・チップフィールド教授は、観測により、CFCの崩壊率における小さな予期せぬ変化を検知し、ちょうどよい時期にこの問題への注意喚起ができたことは心強いと述べている(インデペンデント紙)。

 一方、問題に気づくのと解決するのは同じではないという意見もある。カリフォルニア大学サンディエゴ校のデビッド・ビクター教授は、国際社会が違反者を摘発するのは簡単ではないと断じる。同氏は、モントリオール議定書には執行メカニズムはあっても強制的に従わせる力はなく、報告書を出し貿易制裁で脅す程度だと述べ、違反をする国が出てもおかしくないと考えている(NPR)。

 さらに、政府自体が禁止を求めても、執行能力に欠け、違法な製造を摘発できないケースもある。ビクター教授は、CFC類が規制されたため、ブラックマーケットでの価格は上がっており、闇ビジネスをするのはそう難しくもないと説明する。できれば他国が援助の手を差し伸べるべきだが、部外者が入って、執行活動に取り組むのはかなり難しいとも述べ、国際協調が容易ではないことを指摘している。

Text by 山川 真智子