ズボン、スカート選べる「ジェンダーレス制服」、国内外で採用の動き
4月に開校した千葉県柏市立柏の葉中学校が、性別を問わず「スカート・ズボン」、「リボン・ネクタイ」から選べる制服を採用した。「ジェンダーレス制服」としてNHKなどで報じられると大反響を呼び、市の教育委員会には全国から賛同の声が寄せられたという。東京都世田谷区でも全区立中学校において導入を検討しており、新たなモデルとなりそうだ。
◆海外では「ジェンダー・ニュートラル・ユニフォーム」
「ジェンダー・ニュートラル・ユニフォーム」と呼ばれる選択式制服の導入に熱心なのがイギリスとニュージーランドだ。
イギリスでは、女子にスカートを強要しない「ズボン・フォー・オール・キャンペーン」を展開する教育団体などが政府を動かしてきた。大手LGBTニュースサイト『PinkNews』はこれらの動きや、自由民主党副党首ジョー・スウィンソンらが、生徒の自尊心を高めるなどの利点を挙げ、議会で選択式制服への支持を表明したと伝えている。
もっとも、保守層からの反対など紆余曲折も経ている。2016年には、出生時の性の制服を強制された生徒が学校を訴えた結果、学校が謝罪し、世論も大きく動かした。PinkNewsではこの生徒の主張を、カミングアウトによる葛藤も含めて詳しく報じている。
◆ニュージーランドでも生徒の率直な主張が学校を動かす
ニュージーランドでは、ダニーデン・ノース・インターナショナルスクールが昨年、選択式制服に切り替えた。現地のオタゴ・デイリー・タイムズ紙はハイディ・ヘイワード校長に取材し、いきさつを紹介した。校長が、2人の女子生徒から「先生(※女性)はズボンをはいているのに、なぜ私たちはスカートしかはけないのですか?」(同紙、2017年3月21日)と質問されたことがきっかけだったという。生徒はさらに、男女の服が決まっていることは性差別だとも主張し、校長の心をさらに動かした。
最近、選択式制服の採用に向け動いているのが南島の町のテ・アナウのフィヨードランド・カレッジだ。現地ニュースサイト『Stuff』によると、同校は制服の規則よりも生徒の不調やジェンダートラブルに気を配るなど、以前から生徒の個性を尊重していた。また、記事にあるように、新制服の導入には保護者の声が大きく作用する。生徒はもちろんだが、保護者や教師の多様な意見が制服を変えているのは、どの国でも同じようだ。
ニュージーランドでは小学校から個人を尊重する教育を進める学校が少なくない。その点がイギリスの動きとは違った原動力となったのだろう。
◆「日本のジェンダーレス」に向けられる欧米からの関心
上記の例を見てもわかるように、学校現場で性の多様性を尊重する風潮が強まっているのは欧米でもこの数年のことだ。LGBTに関する制度の変化と聞くと、海外のほうが進んでいる印象を抱きがちだが、学校制服に限ると意外にも数は多くない。その意味では柏市の中学校の例は画期的であり、隣国・韓国でも東亜日報(英語版)が、海外のさまざまなジェンダー中立の取り組みと並べて好意的に伝えている。では、なぜ日本で新しい学校制服が登場したのだろう。
キリスト教のような単一教の社会とは違い、近世までの日本では一般に、同性間の性愛や異性装を禁じる規範がなかった。各地の祭礼や歌舞伎の異性装など、宗教・文化面での「性の越境」もさかんだった。こうしたユニセックスの美意識は欧米で研究対象にもなっており、CNNでは芸術史・人類学教授ジェニファー・ロバートソンが、「日本の“ジェンダーレス継承”を探る」と題して考察している(1月17日)。記事は、日本の複雑なセクシャリティの歴史と昨今の「ジェンダーレス」との類似点を指摘し、さらに近年話題の「ジェンダーレス男子」が規範よりも自分の感性を守る実態も紹介している。
柏市の制服の背景にはLGBTへの配慮はもちろんあったが、上記のような歴史的背景も遠因としてあるのではないだろうか。